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1. Imperium

[ カテゴリ:Dash's Clinic ]

Dash's Clinic: Imperium


目次

第1回 ImperiumのQ&A
第2回 宇宙戦闘の見積
第3回 輸送母艦戦術
第4回 接続の両端
第5回 目的と目標
第6回 帝国の地勢学
第7回 地球の初手
第8回 存亡の機を越えて
第9回 帝国の戦役

付録A 帝国と暗黒星雲
付録B ダークネビュラ
付録C 暗黒星雲を越えて

このDash's Clinic: Imperiumは、2020~2021年に第1回と付録を除く、全ての論文を新規に作成し、査読を受けた論文集である。第2回では、宇宙戦闘の勝率導出用のPythonスクリプトも公開した。
以前のDash's Clinic: Imperiumとは全く異なる内容になっているので、ぜび一読して欲しい。

初めに

 "Imperium"[Conflict Game Co. Edition 1977, GDW reprint 1979, GDW Edition revised 1990]はMarc W. Millerがデザインし、Frank A. ChadwickとJohn Harshmanが1973年から1977年にかけてディベロップしたSci-Fiゲームである。このゲームがSci-Fi Gameの古典的傑作であることに異議をとなえる人はほとんどいないと思う[1, 2]。

 日本国内では、ホビージャパンが1982年に和訳付きで輸入し[3, 4]、1985年に「インペリウム」日本版として販売していた[5]。また2001年と2019年には国際通信社が「インペリウム セカンドエディション」を発売しているため、プレイした人も多いと思う[6, 7, 8]。このゲームは、日本語以外ににも、ドイツ語、イタリア語、ポルトガル語、スウェーデン語、中国語版が存在している。20世紀中に、34807個も発売された[9]、世界的なゲームの1つである(総数は、国際通信社版の発行前)。私自身にとって、ボードゲームにどっぷり浸かる原因となったゲームの1つが、Imperiumであり、e-mailを通して、Marc Millerから多くを聞くことができた思い入れのあるゲームでもある[10, 11]。

 日本国内には、"Imperium"と「インペリウム」で、都合7種類のルールがある。CGC初版英語ルール[12]、GDW第1版英語ルール[13]、GDW第2版英語ルール[14]、ホビージャパンの第1版日本語訳1982ルール[15]、ホビージャパンの第1版日本版1985ルール[16]、国際通信社の第2版2001日本版ルール[17]と第2版2019日本版ルール[18]である。

初見と1回目のパラダイムシフト

 私が最初に触れたImperiumは、ホビージャパンの「インペリウム」第1版日本版であった。1985年タクテクス誌19号裏表紙の発売予告にあった「君が書き上げる、未完の銀河帝国辺境史!」のフレーズに心躍り購入した。最初に買ったインペリウムは、2年かからずにボロボロになり、新しく買い直した。再購入したインペリウムに同封されていた日本版ルールはタクテクス誌上のFAQ[19, 20]を反影したルールとなっていた(ここではこれも含めて第1版日本版1985ルールとする)。英文ルールを持たなかった私は、当然タクテクス誌上のFAQに従ってプレイしていた。

 日本版ルールは「接続のための経路が、第3種星系を通る場合には、タンカーを保有していなければならない」、日本語訳ルールは「接続のための経路が、第3種星系を通る場合には、そのヘクスに味方タンカーがいなければならない」となっていた。この違いは、第1恒星間戦争開始時に、日本版ルールでは帝国がプロキオンに前哨基地を配置でき、日本語訳ルールでは配置できない違いを生じさせた。私がこの違いを知ったのは、1989年に他サークルの古きImperiumプレーヤーと対戦して、英文ルールと日本語訳ルールを教えて頂いたときである。また、集中ミサイル射撃ルールに関する私の勘違いも教えて頂いた[21]。このときは、お互いの知るルールで地球/帝国を入れ替えて2回対戦した。アルデンスの森ならぬProcyonの通過を経験し、衝撃を受けた。

 この1回目のパラダイムシフトは、TUBG内で帝国軍の攻勢戦略が再構築される状態を経験させてくれた。タクテクス誌No. 3 (1982)のSFゲーム総覧にある、「第2次大戦のフランスは、戦車に対する古い考えを捨てきれなかった故に、ドイツの電撃戦に敗北した、とされている。これを笑うのはたやすいが、SFゲームで宇宙船を与えられたとき(中略)、フランスと本質的に同じ過ちを犯さない自信があなたにあるだろか?」と同じ状況をImperiumで経験できたことは、他のウォーゲームでは得られない経験であった。これに関しては、Marc MillerがProcyonに帝国が前哨基地を置けないことを明確にしている[21]。

2回目のパラダイムシフト

 そして2回目のパラダイムシフトは1998年に経験した。1995年頃からネット上で高濱さんを含めた多くの方と"Imperium" red box (第2版)と"Imperium" flat box (第1版)の違いを確認していた。その中で、日本語訳ルールと日本版ルールの反撃戦闘(現在はリアクション戦闘)ルール「反撃フェイズに含まれたユニットのみ(同一フェイズでは1スタックしか動けない)が、反撃フェイズで戦闘に参加できる。もし、反撃部隊(スタック)が他の友軍ユニットがすでに存在しているヘクスに入ったら、その友軍ユニットも反撃部隊としての攻撃に参加できる」の後半文の解釈で、「反撃フェイズに惑星地表ボックスの宇宙艦と反撃艦隊が合同で宇宙戦闘できるか?」という問題であった。

 もう1つの問題は、日本語訳と日本版の特別移動(現在はリアクション移動)ルールでは「反撃艦隊に含まれる全ての艦ユニットを同じ目的地に送る必要はない(途中で落伍させてよい)」[15, 16]と書かれていたが、英文ルールでは "Ships in the reaction force need not all jump to the same destination." [12-14, 23]と書かれていて、括弧内の文章が無いことから生じていた。当時(今も一部)のプレーヤーは反撃艦隊の特別移動は一筆書きと考えてプレイしていた。しかし、括弧書きがない場合、「1個の反撃艦隊スタックを分散して異なる目的地に移動させることができる」と解釈できると考えられたためである。このときの内容は高濱が「インペリウム ルール訂正&解説総集編」としてまとめている[24]。

 「インペリウム セカンドエディション」2019日本版[18]を手にしている方は、不思議に思うかもしれないが、ネット上では議論百出であった。当時の私は「合同反撃不可」、「反撃移動分散可」の立場だったが、高濱さんやTUBGのメンバーと「合同反撃可」、「反撃移動分散可」としてImperiumを対戦し、そのパラダイムシフトに衝撃を受け、立場を変えることになった。2つのルールの相乗効果なのかは分からないが 、TUBG内での対戦相手が壱時的に減少する位の影響があり、地球圈やシリウス圏の防衛計画の再検討が進み、それに合せるように攻撃計画も変っていた。

 このルール解釈に関しては、1970年代の米国Game雑誌の特集記事を集めて読んだり[22, 25-40]、AOL上に Far Future Enterprises のIDを立ち上げていたMarc Millerにe-mail [10, 11]で質問する切っ掛けにもなった。これらの解釈が日本国内に広がるのは、国際通信社の「インペリウム セカンドエディション」2001日本版[16]の登場を待つことになった。又、日本で売られている「インペリウム」が"Imperium" [CGC/GDW]の日本でのバリエーションであることをコマンドマガジン編集部から教えて頂いた[41]。

3度目のパラダイムシフト

2020年代に入って3度目のパラダイムシフトを経験をしたため、Dash's Clinic: Imperiumを全面的に書き直すことにした。

 "Imperium" の英文ルールは、4. Sequence of playに"Game activity not allowed by the sequence, or activity which is performed out of sequence, is prohibited."と書いてあるように、ホワイトリスト型(シーケンスの順にルールに書いてあることしかできない形)で書かれている。しかし、ホワイトリスト型ルールは、RPGのようなGMがいるゲームには向いている(プレーヤーが思いついた/考えついたルールに書かれてない方法の処理をGMの判断に委ねることができる)が、シミュレーション・ゲーム、それもSci-Fiを背景とするゲームのルール記述には向いてない。それはプレーヤーの想像するSF背景に沿って考えついた方法がルールに記述されてない場合に、記述不備として例外処理を発生させ易いためである。特に日本では、英語ルールを日本語にする際に生じる言語の違いによるニュアンスの変化、日本語の曖昧さ、翻訳者のゲーム解釈による差異、英文ルールを読むときの日本語訳ルールからの思い込み、訳者とプレーヤーの想像するSF背景の違いが日本における例外処理を発生させていると感じている。

 中黒が言うようにインペリウム(カタカナ) は日本人スタッフの手によって作成された作品で、Imperium (アルファベット)の日本バリエーションと言える。その考えに従うと、1985年の日本版ルールとFAQ[16, 19, 20]も誤訳というよりは、ルール解釈のバリエーションと考えられるので、その違いもあまり気にならなくなる。この日本での解釈の多様性が、日本におけるインペリウムの戦略・戦術的多様性を生み、日本で愛され再版され続けている原因なのだと思う。米国では、"Triplanetary"は2018年に再版されたが、"Imperium"はRed box (GDW Edition revised 1990) 以降、再版されてない( "Imperium 3rd Millennium" [Avalache Press Ltd. (2000) ]は完全なる別ゲーム)。

訳語の統一

 "Imperium"の英文ルールは3種類[12-14]とMPG-Net Imperiumのhelp file[21]があり、"Dark Nebula"は2種類[42, 43]ある。同じシステムが用いられ、同じ英単語が用いられている。しかし、日本語訳では、ホビージャパンと国際通信社、インペリウムとダークネビュラで一部の訳語が異なっている[15-18, 44-46]。下記に訳語の違いがを示した。論文を書く上て、最新の日本版と訳語が異なると読者に分かり難くなる。また、同じ英文なのにインペリウムとダークネビュラで訳語を変えるのも、論文として一貫性がなくなる。ここでは、下線の訳語に統一した。

略号一覧

最後に

 「インペリウムは、相手によってルールが違うので分からなくなる」や「ルールが、以前と変っていてプレイし難い」との話を聞くときがある。Imperium/インペリウムは、ゲームの根幹がしっかりしているため、先に書いたように国内で商業流通したルールでも3回ほど大きな変化をしているが、ゲームとして破綻することはなく、多くのプレーヤーに色々なルールで楽しまれている[47-53]。現在は、国際通信社のインペリウム セカンドエディション2019日本版が最新商用流通した版なので、これをベースにすると相手との混乱が少なくなる。

 また、Imperiumほどの伝説的なゲームになると、私を含め一家言を持つ方が多くいる。その様な人は独自のImperium宇宙(ルール/法則)を持っているので、ルール(宇宙の法則)の詳細を議論するよりも、「私が帝国(地球)を担当しますから、あなたのルールで第1次戦争を対戦しましょう。次に、私の知るルールで、担当を入れ替えて第1次戦争を再戦しましょう」と伝えて、同じ場面を2つの異なるインペリウム宇宙を楽しんだ方が、面白い経験ができると思う。古きインペリスト(インペリウムのファン・プレーヤー)には、自分の宇宙で超絶テクニックを披露するのでは無く、相手を楽しませて新たなインペリストを増やして欲しい。

 ここの論文が、日本国内で「未完の銀河帝国辺境史」を書く人が、新しい驚きと楽しみを得る一助になることを願っている。

読者の中には、私を英文ルール原理主義者だという人もいると思う。
私は、自身を英文ルール原理主義者とは、少しだけ異っていると考えている。
私は、日本でのルール解釈で、Imperiumが読者にとって伝説的名作であるなら、そのルール解釈で良いと考えている。
もしImperiumが駄作扱いされているのであれば、私は日本でのルール解釈と異なる英文ルールの日本語解を示して、Imperiumが駄作でないことを示したいと考えている。
私の思いは只それだけなので、英文ルール原理主義者というよりは、熱狂的なインペリストだと思っている。

References

[1] M. W. Miller: The Dragon #20, pp.3, III (No.6) (1978). Ref.
[2] G. Cotikyan: Moves #51, pp.29 (1980). Ref.
[3] K. Yamazaki: TACTICS Mgz. Jpn. No.3, pp.6 (1982).
[4] T. Takanashi: TACTICS Mgz. Jpn. No.4, pp.36 (1982).
[5] I. Nakao: TACTICS Mgz. Jpn. No.20, pp.21 (1985).
[6] Y. Nogami: Command Jpn. Mgz. Ed. No.37, pp.72 (2001), No.38, pp.38 (2001), No.39 , pp.50 (2001), No.40, pp.48 (2001).
[7] Store website editor: Game Shop website プレイスペース広島.
[8] E. Kuramoto: Command Jpn. Mgz. Ed. No.150, pp.44 (2019).
[9] M. W. Miller: The Classic Games, pp.8 (Far Future Enterprises, 2001).
[10] Private discussion using e-mail since May 4, 1999.
[11] Private discussion using e-mail since March 25, 2005.
[12] Imperium rules booklet (Conflict Game Co.: 1977).
[13] Imperium rules booklet (GDW: 1979).
[14] Imperium rules booklet (GDW: 1990).
[15] Imperium rules booklet (HobbyJAPAN CO., Ltd.: 1982).
[16] Imperium rules booklet (HobbyJAPAN CO., Ltd.: 1985).
[17] Imperium rules booklet (Kokusai-tushin Co., Ltd.: 2001).
[18] Imperium rules booklet (Kokusai-tushin Co., Ltd.: 2019).
[19] Editor: TACTICS Mgz. Jpn. No.21, pp.108 (1985),
[20] Editor: TACTICS Mgz. Jpn. No.27, pp.115 (1986).
[21] Private game matches and post-game analysis with other clubs member since 1986.
[22] M. W. Miller: The Dragon #20, pp.4, pp.28, pp.31, III (No.6) (1978). Ref.
[23] MPG-Net Imperium Help Files (1997). Wayback Machine.
[24] T. Takahama: 「インペリウム ルール訂正&解説総集編」.
[25] P. Kosnett: Moves #37, pp.16 (1978). Ref.
[26] P. Kosnett: The Grenadier #1, pp.9 (No.2) (1978).
[27] F. A. Chadwick: The Grenadier #1, pp.15 (No.2) (1978).
[28] S. List : GRYPHON #1, pp.6 (1980).
[29] D. Minch: Fire & Movement #13, pp.28 (1978).
[30] D. Minch: The Dragon #18, pp.7,III (No.4) (1978). Ref.
[31] T. Watson: Space Gamer #15, pp.28 (1978). Ref.
[32] C. Reynolds: White Dwarf #16, pp14 (1979). Ref.
[33] G. Costikyan, E. Goldberg, S. List, and D Ritchie: Ares Magazine #1, pp27 (1980). Ref.
[34] R. Camino: J. Traveller's Aid Soc. #1, pp.9 (1979).
[35] R. Camino: J. Traveller's Aid Soc. #5 , pp.16 (1980)
Translation by R. Ito: TACTICS Mgz. Jpn. No.37, pp.34 (1986).
[36] R. Camino: The Dragon #27, pp.34,IV (No.1) (1979). Ref.
[37] M. Crane: The Dragon #39, pp.44,V (No.1) (1980). Ref.
[38] R. Bartucci: Space Gamer #17, pp.15 (1978). Ref.
[39] W. Mizia: Space Gamer #17, pp.17 (1978). Ref.
[40] W. A. Peterson: Space Gamer #19, pp.11 (1978). Ref.
[41] Private discussion using e-mail since Mach 7, 2001.
[42] Dark Nebala rules booklet (GDW: 1980).
[43] Dark Nebala rules booklet (GDW: 1983).
[44] Dark Nebala rules booklet (HobbyJAPAN CO., Ltd.: 1982).
[45] Dark Nebala rules booklet: RPGamer Jpn. Ed. No.9 (2005).
[46] Dark Nebala rules booklet (Kokusai-tushin Co., Ltd.: 2021).
[47] C. Kusakawa: Steller Strategy & Society, pp.2~30 (Soc. SLG, Unv. Ritsumei-kan, 1988).
[48] T. Fujinami: RPGamer Jpn. Ed. No.9, pp.6 (2005).
[49] M. Tosaka: Privet website 銀河辺境 (2001~2016).
[50] TORO: Privet blog TROOPERS (2017).
[51] Pyon: Privet blog 占いとシミュレーションゲーム (2017).
[51] Michael: Privet blog マイケルの戦いはまだまだ続く (2017).
[52] Moritsuchi: Privet blog もりつちの徒然なるままに (2020).
[53] M. Maikata: Privet togetter 舞方雅人@masatomaikata (2021).


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