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コラム 羊と狼

 ナポレオンの言に「一頭の羊に率いられた百頭の狼の群れは、一頭の狼に率いられた羊の群れに敗れる」がある。このコラムでUp Frontにおけるイタリア軍とフランス軍に触れようと考えた時に、ピッタリくる言に思えた。Up Frontにおけるイタリア軍とフランス軍は、他の主要国と比較して弱いことは明らかである。ではなぜ弱いのか? フランス軍の兵士カードは、SLのモラルを除き、アメリカ軍より強そうであり、LMGを除けばドイツ軍と良い勝負である。つまりフランス軍は一頭の羊に率いられた11頭の狼の群れなのである。イタリア軍は一頭の狼に率いられた17頭の羊と言えるのか? この答えはNoである。イタリア軍の兵士カードは主要国のどの国より弱い。SLも、手札枚数も、捨て札制限も、分割カードも最弱である。このままでは羊に率いられた羊の群れである。プレーヤーの力で1頭のリーダー羊を狼にすることはできないのか? その方法について考えてみた。

UP FRONTにおけるイタリア軍の戦略

 イタリア軍は、多くのペナルティを持っているため、通常とは異なる運用が必要である。伊国の標準分隊には、モラル4+の兵士が5人(含む、ASL, LMG)、モラル3の兵士が7人(含む、SL, LMG)、モラル2の兵士が6人いる。坂本匡人[1]が降伏ルールの影響を小さくする上での均一配置として、4−5−5−4を、戸島毅[2]は、Undiscovered Paradiceさんの日本軍のように両翼端にLMGと指揮官を集めた7-2-2-7を提案している。
 最初は、同じように、両翼端にモラル3、モラル4+の兵士をそれぞれ集めて主力とし、中央2グループにモラル2の兵士を集めて戦うのが良いのではないかと考えていた。7−3−3−5では、Gr.B, Cはあまり移動せず、距離チット0〜1を維持する。また、射撃を受けた場合は、回復を試みず、降伏しても良しとする(対露国以外の場合でも、降伏中に射撃を受ければ以後降伏ルールが適用されなるくなるメリットがある)。また射撃グループは距離チット1まで、前進グループは距離チット2まで前進し、中央の低モラルグループへの接近を防ぐと共にVPを得ることを基本戦術として、英国vs伊国、露国vs伊国を実戦した。
 結果は、全て3デッキまでに分隊崩壊で伊国の敗北であった。両翼端に大人数グループを配置した場合、実戦において相手プレーヤーは、Aグループに対して相対距離3、Dグループに対して相対距離2となる距離からの射撃でAグループを崩壊させるような機動をした。特に露国は、相対距離3での伊国と撃ち合いは、気にならないようである。相対距離3での撃ち合いでAグループが崩壊する前にDグループを大きく前進させる手札的余裕が無かったことも、勝敗を一方的にした。
 伊国は日本のようにイニシアチブを自ら取れるような軍隊ではないため、Dグループを前進させて戦闘を仕掛けるような選択ができなかった。伊国はDグループを前進させる手札的余裕が無く、露国が距離決定のイニシアチブを有することになり、結果として相手の得意とする戦場で戦うことになった。敵の戦場で戦うには伊国は脆過ぎる。どの戦いも3デッキ途中で分隊崩壊した。3デッキは長い。

GR7−3−3−5
A3/2 3/2 3/2 3/3 3/3 LMG(3/3) SL(3/3)
B2/2 2/2 2/1
C2/2 2/1 2/1
D4/3 4/3 5/4 LMG(4/3) ASL(4/4)

 手札4枚、非機能多数、移動カード枚数最低という手札条件を考え、4グループ(実働2グループ)の運用は無理と判断し、坂本案と、るっつ案の中間的な3グループ(実働2グループ)編成を検討した。これまで、降伏等の危険を低くするため、攻撃を担うグループを均一的してきた。今回は、非機能となる射撃カードの枚数を減らすことを優先した大射撃グループ、前進し射撃を引き受け得点を得る前進グループと低モラルの待ち受けグループに役割を明確に分担した編成とした。7−6−5は火力の低さが、5−8−5はBグループ全滅で分隊崩壊することが、それぞれの編成上の問題点である。
 伊国(5−8−5)vs米国では、比較的よく戦えたが、米軍の前進を阻止できずにVP負けとなった。対戦相手が米軍ということを考えると、他国フォワードの突進を阻止できそうにない。距離の選択権が相手にあり、手札の枚数制限、非機能の多さから、待ち伏せ用のカードや複数の射撃カードを保持し続けるのが困難なため、前進グループの足を止められなかった。この編成では、戦線を3デッキ維持することは難易度が高いと感じられた。

GR5−8−5
A2/1 2/1 2/1 2/2 SL(3/3)
B2/2 2/2 3/2 3/2 3/2 3/3 3/3 LMG(3/3)
C4/3 4/3 ASL(4/4) 5/4 LMG(4/3)

 火力グループを大きくしても、前進阻止火力としては力不足であることから、敵の射撃グループへの側面射撃と十時射撃を重視し、4−7−7を検討。2/1とSLを1グループに集められる点はプラスだが、遊兵が4名、グループ火力2、CCV0がマイナス。敵Aグループが前進グループでも、Bグループの火力が、Dグループが前進グループでも、CグループをDグループに移動させることで対応可能と考えられた。また敵の前進グループの位置によりBとCを入れ替えることが望ましい。

GR4−7−7
A2/1 2/1 2/1 SL(3/3)
B2/2 2/2 2/2 3/2 3/3 3/3 LMG(3/3)
C3/2 3/2 4/3 4/3 5/4 LMG(4/3) ASL(4/4)

弱者の受動的戦略

 これまでのUpFrontにおける私の戦術、戦略は、自身でイニシアチブをとって戦況を有利する方法論であった。この方法は、独国、日本、イギリスには良い戦略であり、ソ連、米国でもそこそこ働く戦術であった。イニシアチブを取らない戦い方としては、伊国、仏国、米国が当てはまる。米国はBARの火力の低さから距離イニシアチブを取りにくく受け身になってしまう。しかし手札枚数と捨札制限を巧く利用すること、相手の移動リスクを大きくし、固定された戦場での生存競争に持ち込むことで勝利をつかむことが可能となる。仏国は、その良質なライフル兵士による大火力グループを編成することで、自身が受け身でも、相手に困難な選択を強いれる。分割が独国なので、回復が多いことも大火力グループの維持にプラスとなるため、第1次大戦的な受動戦術が利用できる。
 伊国は、質の悪いライフル兵、分割カード非機能、手札4枚という最も状態が悪いため、どの相手に対してもイニシアチブをとることは困難であり、他の2国とは異なる弱者の受動的戦略が必須と考えられる。弱者戦略の基本的な考え方は、相手に誤った選択をさせる局面を作ることにある。どのグループを攻撃するか、攻撃か回復か、隠蔽を使うのか、前進か横移動か、それとも留まるのかなどなど、考えるべきことは多岐にわたる。

 伊国が分隊崩壊する直前の状態は7名潰走、11名が距離チット1が普通に考えられる。VPは+11-7=+4。独国/英国を相手に、3名潰走、7名が距離チット1にできれば、VPは+7-3=+4で引き分け。米国/仏国の場合、4名潰走、8名が距離チット1で、+8-4=+4で引き分け。モラル1以外に2名(仏は3名)なので、少しの幸運があれば引き分けれると考えていたが、実際は、距離チット2に入っての射撃戦となる。この場合、伊国は距離チット2への前進は難しく、VPでの引き分け以上は難しい。
 日本/露国が相手の場合、50.42項が適用されるので分割カード以外は互角になる。伊国は相手より3〜5名多いことを有効に使うことを考える。基本は自身が受けた損害と同じ数だけ相手に損害を与える。距離チット1で考えると、分隊の人数が多いので、露国相手は1名、日本相手は2名分だけ余分に損害を受けても勝てる。この軍隊も、距離チット1に留まるとは考えにくく、3デッキの間、分隊崩壊しないようにコントロールしたとしても、VPでの引き分け以上は難しい。移動、隠蔽、回復カードとも最小数の伊国が、距離チット4に前進して勝利することは、かなりの幸運に恵まれる必要がある。
 結論的には、イタリア軍が勝つには、敵分隊を崩壊させるしかない。

 独国分割カードの回復値平均は2。つまり最低2人Pinにしないと、回復増加分を相殺できない。平均回復効果数がどの国も2.6〜2.8の間であることから、できれば3人Pinにしたい。ロシア分割カードは回復1が3枚増え、4,3,2が1枚づつ減っている。つまり、2人以上Pinにすると効果が大きい。米国分割カードは逆に回復1が2枚少ない。1人Pinにする方が無駄を多くできる。一方、回復カード1枚での平均回復率は66~75%と考えられるので、回復カード1枚で2人回復できると良いので、ピン人数は1人の方が相手に、回復させるかどうかの判断を強いることができる。

 射撃に関しては、耐えてカウンターアタックを決めるような戦術になるので、クロスファイア可能な編成を考える。兵士カードのモラル/パニック値の差の絶対値は1程度である。つまり射撃力で1違う射撃するのが効率が良い。その場合、火力で3程度の差があれば良い。同人数グループでLMGの有無で相対距離1で2、相対距離2で3の差を生じる。相対距離1からライフルが使える国は、LMGのあるグループの人数が、LMGの無い射撃グループより人数が1名多いと良い。相対距離2から使えるライフルの国は、同人数でLMGの有無で編成するとクロスファイアの効率が良い。これは、相手からもどちらを撃つのか迷う原因にもなる(相対距離3になるとLMG無しの方がほとんどの場合、大火力になるため、相手としては前進させたくないという意識を働かせるように振る舞うことも重要)。
 効率で考えた場合、2人の低モラル(平均モラル1.5)グループを射撃するのと、6〜7人の射撃グループ(平均モラル2.5 ~ 3.5)を射撃する場合の射撃力はどの程度が良いのか? 2人の低モラルグループは隠蔽を使われないので、最終射撃力1であれば、1人ピンの場合、76%、射撃力0の場合でも、52%。射撃グループ相手の場合は、最終射撃力1であれば、1人ピンの場合、67~72%。つまりあまり差がない。つまり相手に射撃の目標を迷わせること、そしてアクション時に2アクションするために、低モラルの少人数グループを編成するのが良い方針になる。SLを含むグループがピン状態になった場合、射撃カードがないと、SLの回復の1アクション、または、射撃グループを移動/塹壕堀等させる2アクションになる。これはあまり良い選択ではない。このような場合に、低モラル少人数グループにアクションを担当させたい。また、低モラル少人数グループには地形の配置や、回復においても、できるだけ他の2グループ同時のアクションが無くなるまで耐える必要がある。

  1. 2~4人の低モラルグループを作る
  2. 射撃力に1~2程度差がつく2つの射撃グループを作る
  3. 射撃は2枚目の射撃カードで実施。できるだけLMGを含まないグループで実行する。結果が良い場合に限り、2射目を実施。
  4. 当然、河川、湿地、鉄条網はできるだけ活用する。配置制限に注意し、十字射撃とのコンビネーションに気を配る。
  5. 2アクションするか、2枚捨てするかになるように調整する。1アクションだけ、1枚捨て札だけにならないように、計画を立てておく。

 4−7−7より、もう少し阻止射撃力が大きく、距離選択性のある編成として3−8−7を考える。マイナスポイントは、Aグループは3名の遊兵があること、距離2で2火力しかないこと。敵部隊のAグループへの突撃を誘因できる点がプラス(マイナスの方が若干多い)。敵が相対距離3に前進してきたときの対応を検討する必要がある(普通は恐怖心が防御力となるが、伊国相手の場合は働きにくい。痛い経験をさせれるように準備が必要)。相対距離2での火力は2−10−8、 相対距離3では5−18−15となるようにSLをCグループに入れる。しかし、この場合でも、相手のDグループの突進(例えば露国2-6-2-5)を止めれない感じがする。そこで、Cグループを大きくし、敵Aグループの突撃は、Bグループの高モラル兵士で対応。敵Bグループの突撃は、Cグループの破壊的火力で対応することを考え、3−7−8としてみた。相対距離3以降では、モラル2の兵士が欠けると考えても、Bグループは4名+LMG(FP: 1/2/7/12/13/17)、Cグループは5名+LMG+MP(FP: 1/2/8/15/18/25)とCグループの火力は破壊的であり、Cグループの減殺なしに、敵Dグループの突撃はあり得ない状態を作れる。もし、CグループをDグループにして敵Dグループの前進を阻止するのであれば、SLを除いたCグループとBグループを入れ替えればよい。降伏ルールがある場合、SLが降伏すると、ASLに指揮が引き継がれないので、ASLとSLを別グループに分ける必要性が小さいとも考えられる。

GR3−7−8
A2/1 2/1 2/1
B2/2 2/2 4/3 4/3 5/4 ASL(4/4) LMG(4/3)
C2/2 3/2 3/2 3/2 3/3 3/3 LMG(3/3) SL(3/3)

LMGの故障

 ここまでの検討の中で、残るポイントはLMGの故障率である。日本軍にも言えることであるが、5-6で故障するLMGはで故障するLMGの11倍故障し易い(LMGが6人グループにあると仮定して。3/162/6=1/324:5/162+1/324=11/324)。日本は射撃より移動メインの軍隊のため、LMGの故障率の高さはあまり気にならなかった。しかし伊国の場合、LMGが2丁ある上に射撃をメインとした運用をするため、LMGの故障率の高さが気になる。LMGを火力グループの主火力とすると、本当に必要なときには、LMGが故障中ということもよく経験した。また、『5が出て、LMGが故障した場合に射撃をどの程度続けても良いのか? 』という疑問にも方針を得ておかないと、LMGを破壊することになり、勝利からますます遠のくことになる。
 5を引くと自動的にLMG破壊となるので、5を引く確率を計算した結果を表C1に示す。閾値を10%と考えると、LGM故障後に射撃するのは、3名までに留めるのが良い。6の場合、6人の射撃グループが10人グループを射撃して故障する確率は、17.1%、LMGが故障する確率は2.8%となる。これと同じレベルで5-6故障のLMGを運用するには、故障後に射撃する人数は最大1人になる。

Table C1

Fire timeR5R6
00.00%0.00%
13.09%1.85%
26.08%3.67%
38.98%5.45%
411.8%7.20%
514.5%8.92%
617.2%10.6%
719.7%12.3%
822.2%13.9%
924.6%15.5%
1026.9%17.1%

 次に、6でのみ故障する射撃グループとしてライフル兵のみで構成したBグループを検討した。AグループにはSLとLMG+2/1兵士を配置し、狙撃兵を呼び込む(FP: 1/2/4-3/5/8/11)。遠距離ではグループ人数の多いグループ、同人数なら火力の大きなグループが狙われ易いことから、Bグループは7名(FP: 0/0/6/13/13/20)、Cグループは7名+LMG(FP: 1/2/10-8/14/15/20)。遠距離ではA、Cグループで射撃。中距離では、小火力はAグループ、中火力はBグループ、大火力と十時射撃時にはCグループという担当分けをする。ただし、敵Dグループの突撃をCグループの火力だけで支える必要があることが弱点といえる。そのような相手は限られており、対戦相手国に合わせてBとCグループを入れ替えれば良いと考えられる。3−7−8配置で米国と対戦。米兵に与えた損害と同程度の被害を伊国は受けるも、相手の攻撃力低下により、VP勝利となった。同数被害だと、攻撃力が高いので、それなりに戦えるようである。VP勝利は困難と考えていたが、最後は安全策としてVP勝利を狙ってしまった。続けて対露国戦を3戦実施。露国の分隊崩壊で2勝、伊国の分隊崩壊で1敗(3デッキ目後半の分隊崩壊)。ようやく良い勝負になったと考えられる。対露国の場合、降伏ルールがないため、Aグループはモラル2とモラル3の兵士で構成できるが、西側部隊との対戦では、全員ピン状態にならないように高モラル兵士が欲しい(モラル4とモラル3のLMG兵士を交代させるのが戦力ダウンが小さいと考えられる)。

GR3−7−8
A2/1 LMG(3/3) SL(3/3)
B3/2 3/2 3/2 4/3 4/3 ASL(4/4) 5/4
C2/1 2/1 2/2 2/2 2/2 3/3 3/3 LMG(4/3)

References

[1] M. Sakamoto : Game Journal Jpn. Ed. No. 39, pp. 46 (1995).
[2] T. Tojima : Game Journal Jpn. Ed. No. 56, pp. 48 (1999).


2. UP FRONT
付録F 山岳戦線
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