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輸送母艦戦術

Fighter Transporter

繰り返されるコンバインドフリートの戦闘

 重要星系で繰り返される宇宙戦闘で、地球が1回の敗北でゲームを失う、その様な経験を何度もすると、帝国プレーヤーが「引き分けは勝ち」等と言うようになる。ここで凡才たる私は、「勝率を上げる戦闘的工夫が必要」と考えてしまい、Imperiumが戦略レベルのゲームであることを忘れて悩むことになった。

 コンバインドフリートの戦闘例[1]をモンテカルロ・シミュレーション[2]をして、気がついたことは、帝国は第1次恒星間戦争中に、(11SC, 11DD, 2CL, 1CR, 2TR)からなる艦隊を少なくとも2回は送り込めることである。中村の戦闘例の戦力は横に置いたとして、地球の勝率が70%でも2連勝する確率は50%を越えないし、勝率80%でも65%を越えない。敗北=ゲーム・エンドのような宇宙戦闘では、勝率80%でも厳しい戦いと言える。そしてモンテカルロ・シミュレーションは、宇宙戦闘時の工夫では5%しか勝率が上がらない、Imperiumが戦略レベルのゲームであることを示し、戦闘的工夫では根本的な解決にはならないことを教えてくれた。

 地球としては勝率を90%以上にする新しい戦術的工夫か、帝国に宇宙戦闘敗北時に重要星系を失うような戦略的リスクを取らせる必要がある。帝国に宇宙戦闘敗北のリスクを取らせる場合、敗北がNUSKU / Dushaam星系、または、Shuruppak星系損失につながる戦略的状況にする必要がある。しかし、この場合は「宙域確保戦略」から大きく外れる。そこで新戦術の1つとして輸送母艦戦術を紹介する。

輸送母艦戦術

 輸送艦が戦闘機を積荷としている場合、味方前哨基地のある星系に入いると、輸送として積荷を降ろすことができる。輸送ルールにあるように、移動を続けることもできる。では、敵宇宙艦がいる味方前哨基地のある星系に入いった場合、ジャンプ移動は停止するとして、輸送はどうでしょう?  英文ルール[3-7]は、"Ships carrying Cargos may always embark or disembark a cargos in a friendly system (containing a friendly world or outpost marker);と書かれている。つまり積荷を積降ろしするタイミングは"always"、「いつでも」である。戦闘機や地上部隊を積荷としている輸送艦が、敵宇宙艦がいる味方前哨基地のある星系に移動フェイズに入った場合、輸送艦は移動を停止し、輸送艦は積荷の戦闘機や地上部隊を味方前哨基地に輸送で降ろすことができる。そして続く戦闘フェイズに敵宇宙艦と味方輸送艦の宇宙戦闘に惑星地表ボックスの戦闘機が合流して戦闘することができる。これは味方前哨基地があれば、戦闘機1 RU+輸送艦1 RUの合計2 RUで駆逐艦レベルの戦力を運用できることを示している。地球にとって、地球圏に侵入した帝国偵察艦や駆逐艦を排除するのに有効な手段となる。

輸送は、輸送艦が恒星ヘクスにいる状態(惑星地表ボックスに入いること無く)で積荷だけを惑星地表ボックスに降ろすことができる。味方前哨基地の有無に関係なく、宇宙艦が惑星地表ボックスに降下できるのは、戦闘フィイズの惑星地表/宇宙インタラクションサブフェイズだけであることに注意すること。輸送母艦戦術の場合、輸送艦は恒星ヘクス、戦闘機は惑星地表ボックスに置かれる。

母艦(Mothership)

 母艦(MS)は味方前哨基地のない星系やSIRIUS星系、敵前哨基地のある星系に戦闘機を運搬して攻撃するのに必要な艦種なので、攻撃的兵器としての色彩がより強くなる。また輸送艦は11ユニットしかないため、全ての戦闘機を輸送艦で運搬すると地上部隊を輸送できなくなる。地上部隊を輸送する輸送艦を確保する意味でもMSは必要である。

 輸送母艦戦術は、MSを使わないと地上軍を輸送する輸送艦が捻出できない点、主力艦が戦闘機を輸送できない点、攻撃フェイズプレーヤー側の地上軍が防御側地上部隊より多くないと1戦闘フェイズで前哨基地を攻略できない点で、ルールの意味を再確認させてくれた。そして味方前哨基地のない星系への攻撃は従来通りという点、味方前哨基地があれば TR(F)で反撃防御できる点で、前哨基地の価値を上げ、防御戦術の幅を広げている。

注)ホビージャパンの日本語訳[8]、日本版[9]では「積荷の積み降ろしは味方の星系ヘクス(味方のワールドか前哨基地マーカーを含むヘクス)で行うこと」とalwaysの訳語は消えている。国際通信社の日本版では、宇宙艦ユニットは、味方の星系ヘクス(自軍ワールドか前哨基地のある星系)では移動の途中にいつでも惑星地表ボックスに積み荷の積み降ろしをすることができます[10]、自軍支配下の星系に移動の途中に進入した宇宙艦は、直ちに惑星地表ボックスに降下して積荷の積み降ろしが行えます[11]と、「移動の途中」が追加されている。先に記述した場合以外にも、例えば、地球のリアクション戦闘フェイズに帝国前哨基地のある星系で発生した宇宙戦闘が集中ミサイル射撃した地球MBと戦闘機を積荷とする帝国TRが残り引きわけで終了した場合、続く帝国第2移動フェイズに、TRは積荷の戦闘機を輸送で惑星地表ボックスに降ろして、戦闘することなく星系から移動する、移動しないで戦闘機と合流して宇宙戦闘をすることができる。つまり、輸送は「移動の途中」である必要はない。

コンバインドフリート再び

 中村の地球軍コンバインドフリートは、11SC, 5DD, 3MB, 6F, 11TR, 2MSであった。戦場が地球前哨基地のあるProcyon星系とすると、MSが不用となるので2MSは、5F+3DDと交換できる。そして、中村の言う内殻はMBだけになる。この戦闘、防御: 帝国(11SC, 11DD, 2CL, 1CR, 2TR) vs 攻撃: 地球(11SC, 8DD, 3MB, 11F, 11TR)の勝敗は、地球勝利98%、帝国勝利2%、両軍全減0.2%となる。例え5回会戦しても90%の確率で5連勝することになる。残兵力も7.1SC, 1.6DD, 0.72MB, 5.0F, 5.6TRと25 RU相当あり、帝国から見て戦闘を繰り返えしても戦力差が広がるため、戦闘を繰り返えす意味は無い。Procyon星系の惑星地表ボックスに戦闘機を11ユニット配置したのと結果は同じだが、Procyon星系の惑星地表ボックスに戦闘機を11ユニット配置するのと異なり、11TR(F)は、Procyon星系にもBarnard's star星系にもジャンプ移動できる。

 連邦2ターン分の予算54RUで生産した地球艦隊(11SC, 3DD, 3MB , 11F, 11TR)で帝国艦隊(11SC, 11DD, 2CL, 1CR, 2TR)を攻撃したとしても、地球勝利77%、帝国勝利22%、両軍全減1%である。

 輸送母艦戦術は帝国軍が帝国前哨基地がある星系でも同じように利用できる。帝国はMSも使うとFを最大12ユニット投入できるので、帝国前哨基地がある星系では地球の勝利は覚束ない。

 つまり、両軍ともに戦力を集めて、1回の戦闘フェイズで敵前哨基地を破壊できる戦力を集める、または、地上部隊が集まる前に攻撃し、1回の戦闘フェイズで敵前哨基地まで破壊する必要がある。これは中村が「インペリウム百年戦争史」の特別編で示している状態に酷似している[12]。

本論文の内容は Imperium [GDW] のルールをもとに考えている。インペリウム[K2]で使う場合は、バリエーションの1つと考えて、対戦相手の同意を得て使用して欲しい。

宇宙戦闘の勝率は試行回数N=10000のモンテカルロ・シミュレーション[2]の結果である。

References

[1] T. Nakamura: Game Journal Jpn. Ed. No.10, pp.1 (1993), No.11, pp.9 (1993), No.12, pp.17 (1993), reprint: Game Journal Jpn. Ed. No.1, pp.50 (2001), No.2, pp.50 (2002), No.3, pp.46 (2002).
[2] K. Ueda: Dash's clinic: Imperium "Estimate space combat results" (2021).
[3] M. W. Miller: The Classic Games, pp.8 (Far Future Enterprises, 2001).
[4] Imperium rules booklet (Conflict Game Co.: 1977).
[5] Imperium rules booklet (GDW: 1979).
[6] Imperium rules booklet (GDW: 1990).
[7] MPG-Net Imperium Help Files (1997). Wayback Machine.
[8] Imperium rules booklet (HobbyJAPAN CO., Ltd.: 1982).
[9] Imperium rules booklet (HobbyJAPAN CO., Ltd.: 1985).
[10] Imperium rules booklet (Kokusai-tushin Co., Ltd.: 2001).
[11] Imperium rules booklet (Kokusai-tushin Co., Ltd.: 2019).
[12] T. Nakamura: Game Journal Jpn. Ed. No.4, pp.69 (2002).


1. Imperium
第2回 宇宙戦闘の見積
第4回 接続の両端
Dash's Clinic: All right reserved by Kazuhiro Ueda, 2021.

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