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Double Starの天体物理

Astrophysics for Double Star

 初めてDouble Star のマップを見たとき、目についたのは2つの長円の公転軌道であった。ケプラーの第1法則(Kepler's 1st laws)は全ての惑星は楕円軌道上を動くため、長円軌道は楕円軌道をヘクスマップに投影する上での近似と思い、ルールを読み進めた。しかし、公転のルールは、1ヶ月(2ターン)に1ヘクス移動するだけで、ケプラーの第2法則(Kepler’s 2nd laws)も無視していたため、シミュレーションとして残念に思っていた。最近になって、pythonスクリプト[1]を用いれば、ニュートン力学に従ってDouble Star星系の連星系モデルを検討できると考え、実際に試してみた。

ケプラーの第1法則

 ケプラーの第1法則(Kepler's 1st laws) に従ってPlanetoidのLu「旅」とK'un「困」の公転軌道を修正した結果をFig. 1に示す。Luの楕円軌道をマゼンダ色の実線で、K'unの楕円軌道をシアン色の実線で示した(元の長円軌道は破線で示した)。2つの公転軌道は、長軸半径と短軸半径を維持した短周期彗星の軌道に似た楕円軌道と、長軸半径を維持し離心率(ε)を0.5とした太陽系の冥王星(Pluto)やエリス(Eris)に似た形の楕円軌道である。太陽系の彗星(Comet)や冥王星、エリスの軌道は第1焦点に太陽があるのは当然共通だが、第2焦点の方向は一致していない。Double Star星系の場合、G0型恒星の重力の影響で第2焦点の方向が揃う可能性は否定できないが、Marc MillerがLuとK'unの公転軌道にどのようなデザイン意図を込めたのかは不明である。ここでは比較的長円軌道に近い形に見える短周期彗星型の軌道(以後、彗星型軌道と記述)を中心に検討を進める。


Fig. 1 "Double star" map with Lu and K'un in elliptical orbits
The elliptical orbit of Lu is shown as a solid magenta line and the elliptical orbit of K'un is shown as a solid cyan line. The cometary-type orbits are calculated with the same major axis diameter and the same minor axis diameter as the major circular orbit (black dashed line). Plutoid-type orbits (that like the solar system dwarf planet Eris) are calculated with the same major axis diameter and the same eccentricity as the great major circle orbit. A red broken line is the line where the G0 V / M8 V binary star's gravity is in equilibrium.

連星のスペクトル型

 恒星のうち少なくとも25%は連星、その内の90 %は二連星と推定されているので、二連星はそれほど珍しい星系ではない。Double Star星系は、G0型の"An-Nur"(女后: Kou)とM8型の"Az-Zar"(晋: Chin)の2つの恒星が10±0.5 AU (マップスケール: 1ヘクス = 0.5 AU = 7.4798936E10 m)の距離にある連星系として描かれている。

G0矮星とM8矮星の連星

 連星の明るい方が主系列星ならば暗い星はより赤いスペクトル型に属しているとされているので、G0矮星とM8矮星の連星は珍しい組み合わせではない。G0矮星の質量は太陽の1.04倍、M8矮星の質量は太陽の0.302倍である[2]。An-Nurの引力とChinの引力が釣り合うのはAn-Nurから6.498 AU、Chinから3.502 AUの位置である。Fig. 1にDouble Starのマップ上に、重力の平衡面(線)を赤色の破線で示した(連星の公転による遠心力等の影響を考慮してない)。この破線より左上はAn-Nurの重力圏であり、右下がChinの重力圏である。Chinを周回するPlanetoidのLuとK'unの公転軌道はFig. 1上に黒の破線で示した。これらの公転軌道の遠日点は破線(a)より左上にある。つまりLuとK'unは遠日点手前でAn-Nurの重力に捕まり、An-Nurに向って落下すると考えられる。連星系の公転シミュレーションを、三体問題のプログラミング[1]を参考にPython スクリプトで作成して確認した。シミュレーションでは単純化のため惑星間の重力、自転及び潮汐力の影響は無視した。連星の軌道周期の4倍(連星が軌道を4周する)だけ、LuとK'unの軌道をシミュレーションした結果をFig. 2として示す。赤色の実線はM8矮星の軌跡、黄色の実線はG0矮星の軌跡ある。ここでは連星の軌道離心率は0、恒星間距離は10 AUとした。Fig. 2(a)(b)はLu、(c)(d)はK'unのシミュレーション軌跡ある。(a)(c)は彗星型軌道を初期値とし、(b)(d)は離心率(ε)=0.5の楕円軌道(Eris型軌道)を初期値としてある。各図に4本の実線があるのは、近日点(緑色、水色)と遠日点(黒色、青色)を初期値として、遠日点がAn-Nur側にある場合(黒色、水色)と近日点がAn-Nur側にある場合(緑色、青色)である。黒色の実線はAn-NurのPlanetoidとなり、黒色以外の初期値のK'unは4軌道周期内に星系外に去っている。Luは(b)の青色の軌道が4.027 恒星周期にChinと衝突し、他の軌道は17恒星周期内に星系外に去った。つまり、この連星の組み合わせと距離では、LuとK'unをChinのPlanetoidとして維持できない。


Fig. 2 Simulated orbits of planeroids Lu and K'un
The solid red line is an orbit of M8V "Chin" and the solid yellow line is an orbit of G0V "An-Nur". (a) and (b) show simulations of the orbit of the planetoid Lu. (c) and (d) show simulations of the orbit of the planetoid K'un. Simulations (a) and (c) are performed with cometary-type orbital elements as initial values, while simulations (b) and (d) are performed with Plutoid-type orbital elements as initial values.

pythonスクリプトでは、太陽質量を1、地球の軌道半径を1、地球の公転周期を1として規格化してある。Worldの質量は地球と同じ3.00E-6、Planetoidは直径が月の半分として6.0E-9とした。
シミュレーション動画(2恒星周期分)
彗星型軌道のLuとK'un: 条件1条件2条件3条件4
Eris型軌道のLuとK'un: 条件1条件2条件3条件4

M型巨星とG0矮星の連星

 Chinを(M型スペクトルにIV型はないので) M9 III型にすると、重力の平衡面はChinから7.483 AU(彗星型軌道の外側)に移動させることができる。連星の明るい方の星が巨星の場合には暗い方の星はより高温のスペクトル型に属するとされているので、An-NurはG0Vとできる。しかし、M9巨星は恒星半径が1.67 AU(3.3ヘクス)もあるため、LuとK'un、Chien「乾」とI「益」は巨星に飲み込まれる。更にM9巨星のハビタブル・ゾーンは52 AUなので、An-Nurの惑星も居住不可となる[2]。

白色矮星の連星

 Chinの質量を不安定なレベルまで大きくした白色矮星(通常、白色矮星の質量は太陽質量の1.44倍をこえることは無い。それを超える白色矮星は不安定である[2])とすると、重力の平衡面を左上に移動させることができる。彗星型軌道の外側にするには、An-Nurの質量を太陽の42%以下、M3矮星以下にする必要がある。一方でAn-NurをK8矮星以下にするとハビタブル・ゾーンが0.24 AU以下となり、An-Nur星系に植民に適した惑星が無くなる。つまりこの場合もDouble Star連星系は植民に適さない星系となる。

連星の離心率

 Double Star連星の共通重心はG0矮星から2.25 AU(ヘクス1711、1712、1811の接する頂点付近)の位置となる。連星の離心率(ε)が0なら、共通重心を中心とした同心円軌道となり、Fig. 2 に示すようにG0矮星(黄色実線)の外側をM8矮星(赤色実線)が公転する。恒星間距離を10 AUとすると、連星の恒星周期は327.5ヶ月(27.3年)となる。先の検討では、連星の離心率を0としたが、ここでは離心率を変えた場合について検討する。
 連星の離心率(ε)を大きくすると近日点では恒星間距離が10 AUより近くなり遠日点では離れることになる。Double Starのマップ上の恒星間距離が20ヘクスなので、10±0.5 AUをプレイ・タイムと考える。近日点での恒星間距離を一定として離心率を大きくすると、軌道周期が1/√{(1-ε)^3}倍となる。J. Traveller’s Aid Soc. No. 3誌上のDouble Star バリアント[3]として、100年後に再戦するシナリオが公開されていることから、ε ≒ 0以外に連星の恒星周期が50年となるε = 0.332、100年となる離心率 ε = 0.579前後は候補となる。しかし、Double Starのマップが使える2恒星が10±0.5 AUの距離にある期間は、ε = 0.332で81.1ヶ月(163ターン)、 ε = 0.579では60.7ヶ月(122ターン)である。Fig. 3に(a) ε = 0.332、(b) ε = 0.579の連星の軌道を示す。


Fig. 3 Orbits of "Double Star" binary star system with different binary eccentricities.
The orbits of binary stars for (a) ε=0.332, and (b) ε=0.579 are shown. In (a) and (b), the interstellar distance in 10 ± 0.5 AU is 163 and 122 turns.

シミュレーション動画
eccentriciey=0.332.gif
eccentriciey=0.579.gif

An-Nur星系

 Fig. 4はAn-NurとChinとworld / planeroidの3体問題としてDouble Star連星系をシミュレーションした結果である。(a)はε=0.332、(b) はε=0.579のAn-Nur星系である。黄色の実線がAn-Nur、赤色の実線がChin、黒色の実線がAl-Ruzzak、緑色の実線がAl-Mughni、青色の実線がAl-Mumit、灰色の実線がAl-Akhirの公転をシミュレーションした軌跡である。10 恒星周期間のシミュレーションを行い、An-Nur星系内のworld / planeroidの軌道が安定していることを確認した。

Chin星系

 Fig. 4(c)はε=0.332、(d) はε=0.579のChin星系である。灰色の実線がChien「乾」、緑色の実線が、Ta Yu「大有」、青色の実線がK'an「坎」の公転をシミュレーションした結果である。両方共に、2恒星周期目にK'anがAn-Nurの公転軌道に遷移した。10恒星周期間のシミュレーションを行い、Chin星系内のworldの軌道が安定していることを確認した。 一方、K'anは20軌道周期の間に星系外に去った。 Chin星系には長軸半径が5ヘクス、2.5±0.25 AUより大きなPlanetoidのLuとK'unもある。離心率(ε)を変えてもK'an、LuとK'unをChinのPlanetoidとして維持できないことが分かった。離心率(ε)の検討はここまでとし、以後の検討ではε = 0を用いることにする。


Fig. 4 Simulation results of the binary star system.
(a) and (c) have eccentricities equal to 0.332. (b) and (d) have eccentricities equal to 0.579. The yellow solid line mimics the orbit of "An-Nur" and the red solid line mimics the orbit of "Chin". The world orbits shown in (a) and (b) are: the black solid line is Al-Ruzzak, the green solid line is Al-Mughni, the blue solid line is Al-Mumit, and the gray solid line is planeroid of Al-Akhir. The world orbits shown in (c) and (d) are: the black solid line is Chien, the green solid line is Ta Yu, and the blue solid line is planeroid of K'an. The previous links are GIF animations of the simulations.

恒星間距離

 これまでの検討から、LuとK'unをChinのPlaneroidとして公転軌道を維持するには、恒星間距離10 AUは近いことがわかった。そこでG0矮星An-Nur とM8矮星Chinの恒星間距離をお互いの重力が殆ど影響しない距離に離すことを検討した。その結果、恒星間距離を22.9 AU以上にすると、彗星型軌道のLuとK'unを含めた全てWorld / Planeroidが各恒星系を公転することが分かった。
 Fig. 5に恒星間距離を26.8 AUとした場合の軌道シミュレーションの結果を示す。またシミュレーションの初期値をTable 1に示す。この連星の恒星周期は120年で、全てのworld / planeroidの公転周期の大凡の最小公倍数となっている。1恒星周期で全てのworld / planeroidがほぼ元の位置に戻るため、公転を動画として表示し易い。Fig. 6(a)としてG0矮星An-Nur のworld / planeroidの軌跡を、(b)としてM8矮星Chinのworld / planeroidの軌跡を、連星重心を原点として示した。実線の色はTable 1と同じである。また(c)はG0矮星を原点としたAn-Nur星系のworld / planeroidの軌跡、(d)はM8矮星を原点としたChin星系のworld / planeroidの軌跡である。内惑星の軌跡は周回数が多いため、連星の重力により生じた軌道のズレが重なり太くなっている。planeroidのLuとK'unの軌跡は連星の重力により生じた軌道のズレが大きいことを示している。


Fig. 5 A GIF animation of the orbits of stars, worlds, and planetoids in the Double Star binary, where one second equals about one year. A yellow filled circle indicates "An-Nur" and a red filled circle indicates "Chin". The colors of the worlds and planeroids are shown in Table 1.

Table 1 The orbital elements used as initial values for the simulation

Name Major axis radius Orbital period* Color
Al-Ruzzak 0.64 AU 6 months black
Al-Mughni1.01 AU 12 months green
Al-Mumit2.07 AU 35 months blue
Al-Akhir2.50 AU 46.5 months gray
Chien / I 1.05 AU 23.5 months black
Ta Yu 1.91 AU 57.5 months green
K'an 2.57 AU 90 months blue
Lu 2.95 AU 111 months magenta
K'un 3.52 AU 144 months cyan




Fig. 6 Results of orbit simulations for the binary star system with an interstellar distance of 26.8 AU.
(a) Simulated results of the orbits of the world and planetoid in the "An-Nur" star system. (b) Simulated results of the orbits of the world and planetoid in the "Chin" star system. (c) and (d) show the world/planeroid orbitals of the An-Nur system with the origin at the G0V star and the Chin system with the origin at the M8V star, respectively. The color of the solid line is shown in Table 1.

 この案を実際のゲーム"Double Star"に用いる場合、マップを**14列で上下に切断し、間にで26ヘクス(以上)のヘクスマップを入れる必要がある(G0矮星とM8矮星の恒星間距離は23 AU以上必要なので26ヘクス以上となる)。または、上半分をAn-Nur星系マップ、下半分をChin星系マップとし、An-Nur星系マップの下端から盤外に移動した場合とChin星系マップの上端から盤外に移動した場合は、盤外移動中と扱う必要がある。盤外移動で規定のヘクス数を移動した後に、An-Nur星系マップの下端またはにChin星系マップの上端のヘクス列に登場する。Fig. 5、Fig. 6では恒星間距離を26.8 AUとしたが、ゲームに使用する場合は25 AU、恒星周期は106.6年(2558.5ターン)とした方が使い易い。盤外移動ヘクス数を移動力(2, 3, 5)の最小公倍数の30ヘクスとすることで、盤外移動に必要なターン数を整数化でき、宇宙船をターン記録ボックスに置くことができるからである。

 「連星の軌道周期は対数正規分布に従っており、周期が約100年程度の連星が最も多い」とWikipediaにあり、ケンタウルス座α星A / Bの恒星間距離は24 AU、シリウスA / Bは20 AUであることからも、このような連星系は宇宙にはありふれているといえる。

Space Ship

 Double Starはジャンプ航法の実用化(AD2089)により放棄された、亜光速船による他星系植民計画の結果である[4]。AD2076を背景とするBelter [GDW]のパトロール船は0.5Gの加速性能をもっている[5]。一方で、TravellerのTech levelに従うと宇宙船のノーマルドライブは1Gとなる。つまりDouble Starの宇宙船は、0.5Gまたは1Gの加速性能があると考えられる。

Mayday

 TRAVELLER [GDW]の宇宙船は1G ~ 6Gの加速性能を持っている。宇宙船同士戦闘を扱うMayday [GDW]では、1ターン = 100分、1ヘクス = 1光秒のスケールで、1G (= 9.8 m/s^2)を単位加速として未来位置を1ヘクス遷移させることができる[6]。また上級ルールと併用する場合として、5ヘクス内を近距離、6ヘクス以上を遠距離、15ヘクスを超えると距離外としている。1979年当時のGDWは宇宙戦闘中の敵味方は15光秒以内にいると考えていたことが分かる。

 Maydayをベースに実際に計算する。100分間連続で1G加速した場合、0.59ヘクス移動し、速度は1.18ヘクス/ターンとなる。これをDouble Star のスケール(1ターン = 14日、1ヘクス = 0.5AU)に当てはめると、14日連続噴射が前提ではあるが、1ヘクス遷移に必要な単位加速は0.0603 m/s^2 = 0.00615Gとなる。これはBattlefleet Marsの加速スケールと同じ位である[7]。

 Mayday型のベクトル演算式をDouble Starには適用すると、加速・減速が14日連続の加減速噴射となる。戦闘艦が減速する場合、進行方向に船尾を向けて14日連続で減速噴射をすることになり、敵に自らの位置を明らかにして、船尾から攻撃を受けることになりかねない。Double Star中の宇宙船は、スケールの違いからMaydayのように長時間の連続噴射をするのではなく、最大出力で短時間噴射して目標の速度を得て慣性移動し、回避や目標選択等の戦闘機動を可能する、そして減速時も敵に発見されても対応する時間を与えないように、最大出力で短時間の減速噴射をすると考えられる。

Belter

 Belterのパトロール船は0.5Gの加速性能を持ち、1 unit = Cr. 500の燃料(推進材)を6 unitsの積載している。パトロール船は、1 unitの燃料で40時間程度の加減速が可能である[8]。Belterのパトロール船は6 unitの燃料消費により、Double Starのマップ上で11.8ヘクス先に移動して停止できる。Double Starの宇宙船は燃料(推進材)の補給を必要としないことから、スラスター推進(TRAVELLERのノーマル・ドライブ)なのかもしれない。この場合、0.5Gの加速性能を14日フルに使用すると24ヘクス先に移動して停止できる。また単位加速を0.00615G とすると0.5Gは81 加速単位になる。マップの広さが27 x 40ヘクスなので、実効的にはマップ上の何処にでも移動し、何処にでも止まれる。このままでは、時短になるが、戦闘を避ける機動ができない点は、シミュレーション・ゲームにある移動の駆け引きが無くなる。

Binary Star

 Double Starの時間スケールは、1ターン=2週間、2ターン=1ヶ月となっている。1年を365.25日とすると1ヶ月は30日と10.5時間、1ターンは15日と5.25時間となるが、2週間は14日なので29.25時間の差がある。この差は加速・減速中の移動距離の補正、戦闘時間、撤退時の移動時間の処理に使用される予備時間と考える。予備時間があるのでターン終了時の宇宙船が移動中/停止中かは影響しない(予備時間でどちらにでも変更できる)。

 Double Starの宇宙船は2~5移動力を持っているので、単独で直進する場合、目標ヘクス内に3σで収まる船首方向と推進ベクトルの角度誤差は、2ヘクスなら角度誤差Δθ = 81 mrad.(4.6°)以下、3ヘクスならΔθ = 55 mrad.(3.1°)以下、5ヘクスならΔθ = 33 mrad.(1.9°)以下となる。

 最初に艦隊を組んだ状態で慣性移動が可能か確認する。Maydayでは同一ヘクスは衝突/接舷可能距離となっているため、味方船とは1光秒は離れる必要がある。また敵と15ヘクスを超えると距離外となる(交戦中の味方とは14ヘクス以内)。3移動力の宇宙船(巡洋戦艦、巡洋艦、ロボット戦闘機)で編成された艦隊は3ヘクス移動後にScattered (散開隊形)で戦闘をする。つまり艦隊14ヘクス以内に集結している必要がある。3ヘクス移動後に±3σ で14.5光秒以内にいるにはσ = 2.42光秒となる。従って、Δθ = 3.2 mrad.となる。

 タスク・フォースを編成している宇宙船は2ヘクス移動後にFormationを組める範囲に密集し、且つ、衝突しない必要がある。2ヘクス移動後に±σ で1光秒以内、±3σ で1.5光秒以内と考えられる。σ = 0.5光秒なので、Δθ = 1.0 mrad.となる。

 この結果からΔθを移動ヘクス数nで定式化すると、Δθ = (3.196)^n x 0.1 mrad. とすることができる。2ヘクス移動するとΔθ = (3.196)^2 x 0.1 mrad. = 1.02 mrad.、3ヘクス移動するとΔθ = (3.196)^3 x 1E-4 rad. = 3.26 mrad.、5ヘクス移動するとΔθ = (3.196)^5 x 0.1 m rad. = 33.3 mrad.となる。

 この船首方向と推進ベクトルの角度誤差は重力や太陽風(An-Nur wind / Chin wind)の影響を考えると、PID制御無しでは実現できない。軌道修整なく慣性航行だけで14日間航行して目的ヘクスに到着するのは難しく、航行中も航路制御の機動をする必要があることを示唆している。

定式中のパラメータ(3.196)の値に根拠はない。Double StarとMaydayにおける宇宙船の移動を一元的に説明するのに適当な値というだけである。

 次に加減速と巡航速度について、宇宙船の最大加速を1Gとして検討する。2移動力の宇宙船は1Gで3.6時間の加速して2ヘクス/ターン (≒ 1.3E2 km/s)の速度を得て、加速後は軌道修整を繰り返し14日後までに2ヘクス先に到着する。また1ヘクス移動して停止するのに必要な時間は7日と1.9時間である(2回繰り返しても14日と3.8時間)。

 3移動力の宇宙船は1Gで5.6時間の加速して3ヘクス/ターン (≒ 1.9E2 km/s)の速度を得て、加速後は軌道修整を繰り返し14日後までに3ヘクス先に到着する。1ヘクス移動して停止するのに必要な時間は5日と-4.6時間である(3回繰り返しても14日と10時間)。

 5移動力の宇宙船は1Gで9.8時間の加速して5ヘクス/ターン (≒ 3.5E2 km/s)の巡航速度を得て、加速後は軌道修整を繰り返し14日後までに5ヘクス先に到着する。1ヘクス移動して停止するのに必要な時間は3日と-2.1時間である(5回繰り返すと14日と14時間)。

宇宙船の移動

 宇宙船の移動は、タスクフォースか、艦隊(散開隊形)か、単独航行かで移動速度の最大値が変化する(移動力で処理しない)。タスクフォースはCommand Shipをマップ上に置いて示す。艦隊(散開隊形)は専用の表示カウンターを用意して示す。マップ上に置かれているCommand Shipと艦隊カウンター以外の宇宙船は単独航行として扱う。

恒星周期の影響

 連星系は恒星が周回しているため、宇宙船の機動もその影響を受ける。オリジナルのマップの場合、Double Star連星の恒星周期は約27.3年、そしてAn-Nurの軌道半径は共通重心から約2.25 AUなので、An-Nur は1年で0.5 AUだけAn-NurとChinを結ぶ直線と直交する反時計方向に移動する。Chin星系の軌道半径は約7.75 AUなので、3.5ヶ月に0.5 AUだけ移動する。星系に属するwould / Planetoid、宇宙船はこの軌道速度を持っており、目標星系は軌道速度で遠ざかる。Fig. 7はAn-Nur 星系のAl-AkhirをChinに最接近した際にChin方向に1 AU / 月で移動(パワープラント1機で移動)させた場合の軌跡(灰色の点)と、Chin星系のK'anをAn-Nurに最接近した際にAn-Nur 方向に1 AU / 月で移動させた場合の軌跡(黒色の点)である。各Planetoidの公転速度はルールに従ってパワープラント消費時に相殺している。(a)はAn-NurとChinがY = 0となるように座標変換した結果であり、(b)は連星重心を原点とした結果である。図中の各点は1ターン(0.5ヶ月)毎の位置を示している(An-NurとChinは繋がって太い曲線に見えている)。(a)の表示ではAl-Akhirは直線に進むように思えるが、目標星系のChinが連星軌道に沿って移動しているため、Chinから離れて行く軌跡になる。K'anの軌跡も同様であるが、An-Nurの重力が影響して軌道が変化している。(b)を見ると、Al-AkhirとK'anは、恒星の軌道速度をを持ったまま、Y方向の速度が与えられていること、恒星接近時に重力の影響を受けていることが分かる。(c)と(d)は出発星系の軌道速度を相殺し目標星系の軌道速度を加算した速度をY方向に加えた結果である。Planetoid の速度は1.018 AU / 月となり、軌道速度の影響が約2%であることが分かる。

 宇宙船は機動において、恒星の軌道速度や重力を相殺していると考えることができる。Planetoidも速度が大きいため恒星重力の影響は小さい。An-Nurを3ヶ月(6ターン)で公転する軌道半径は0.400 AU、Chinは半径0.265 AUなので、恒星ヘクスに隣接するヘクスはPlanetoidの軌道に重力が影響する。


Fig. 7 When the planetoid Al-Akhir is closest to Chin, the locus that moves to Chin by 1 AU / month using one power plant is shown in gray dots. Also shown in black dots are the locus that moves 1 AU / month to An-Nur using one power plant when the planetoid K'an is closest to An-Nur.
(a) is the result of transforming the coordinates so that An-Nur and Chin have Y = 0, and (b) is the result of using the center of gravity of the binary star as the origin. The circles in the figure are the trajectory of each turn. (c) and (d) are the results of adding a velocity that cancels out the orbital velocity in the y-axis direction.

パワープラント

 Planetoidの軌道修正にはパワープラントが必要である。Double StarのパワープラントはPlanetoidに1 AU / 月の速度を与えるパワーがあるが、消費することから爆発のような瞬間的な出力と考えられる。そこでパワープラントを用いてPlanetoidを移動させるルールを次の様に修正する。

  1. 軌道からの解放: Planetoid上にパワープラント(動力施設)を少なくとも1個持っているプレーヤーは、Interim phaseにパワープラントを1個消費する(つまり、マップ上から取り除く)ことによって、このPlanetoidを軌道から外すことができる。その際、Planetoidコマを天体表面図から取り出し、マップ上に配置する(Planetoidコマがまだマップ上に現れていない場合)。Planetoidの向きはどの方向でも良い。次に未来位置マーカーを隣接ヘクスに配置する(未来位置マーカーを自作すること)。
  2. 移動: Planetoidは、Interim phase毎に未来位置マーカーの位置に必ず移動する。
    1. Interim phase開始時にいるヘクスに過去位置マーカーを置く(過去位置マーカーを自作すること)。
    2. プレーヤーはパワープラントを1個消費して、Planetoidコマを未来位置マーカーの隣接するヘクスに配置することができる。パワープラントを消費しない場合はPlanetoidコマを未来位置マーカーのヘクスに配置する。
    3. 過去位置マーカーとPlanetoidを結ぶ直線を、同じ方向に同じ距離だけ伸ばし、その先端のヘクスに未来位置マーカーを置く。これが次のInterim phaseに(コースを変えようとパワープラントを消費しなければ) Planetoidが存在しているはずの予測位置である。
    4. 恒星ヘクスに隣接するヘクスは恒星の重力場となり、その重力の方向は恒星に向いていると考える。重力ヘクスを通過したPlanetoidは重力の影響を受けて予測される未来位置が変化する。移動中のPlanetoidが重力ヘクスを通過する毎に重力効果が適用され、未来予測位置を通過した重力方向と同じ向きに1ヘクスずらしていく。
  3. 軌道への復帰: Planetoidの速度が1で、そのPlanetoidコマと未来位置マーカーがマップに印刷されている軌道に沿っている場合、パワープラントを1個消費することで、Planetoidをその軌道にのせることができる。同じヘクス内に他のWould / Planetoidがある場合、移動してきたPlanetoidはそのWould / Planetoidの衛星となる。PlanetoidをWould / Planetoidの公転軌道にのせる場合は、Would / Planetoidの公転軌道上のラグランジュ点のヘクスでパワープラントを1個消費する。これで公転軌道に入れることができる。公転軌道上のラグランジュ点は、恒星とその軌道上のWorldを結ぶ直線と60°方向の軌道上(L4, L5)、または直線を延長し恒星の反対側の軌道上(L3)にある。これら以外のヘクスでは、安定した公転軌道をとることができない(1d6周期後に半径が1ヘクス小さくなる。なにもしなければ恒星に落下する)。
  4. Chin星系に半径1ヘクスの公転軌道(公転半径: 0.265 AU、公転周期:3ヶ月)は印刷されてないが、恒星の重力場効果で自動的に公転する。ただし、このままだと1~2周(2D6ヘクス移動後)でChinに落下する。安定軌道にのせるにはパワープラントを1個消費する必要がある。
  5. 衝突: Would / Planetoidのあるヘクス内にPlanetoidが入った場合、パワープラントを1個消費すると、PlanetoidをWould / Planetoidに衝突させることができる。ただし衝突は、そのPlanetoidを所有しているプレーヤーの戦闘フェイズに発生する。
An-Nur星系とChin星系には半径1.5 AU(3ヘクス)の公転軌道が無い。

星系マップ

 G0矮星とM8矮星の恒星間距離を50ヘクスとして、マップを上下に分割して使う。盤外移動を30ヘクスとすることで、タスクフォース、艦隊、単独航行の宇宙船の盤外移動に必要なターン数を15、10、6ターンと整数化できる。タスクフォース、艦隊、単独航行の宇宙船やPlanetoidが盤外移動を開始した時点で、宇宙船を指揮するプレーヤーは盤内に再登場するヘクス番号を密にメモすること。再登場する盤端のヘクス番号は宇宙船を指揮するプレーヤーが選ぶ(ヘクス番号の下2桁は13~15となる。上2桁はプレーヤーが決定する)。Planetoidは盤外移動中にパワープラントを1個だけ必ず消費し、再登場する盤端のヘクス番号は宇宙船を指揮するプレーヤーが選ぶ(ヘクス番号の下2桁は13~15となる。上2桁はプレーヤーが決定する)。パワープラントを消費できないPlanetoidは深宇宙を旅し戻らない。宇宙船が盤外移動中に、元の星系に戻る場合、宇宙船は経過した同じターン数をかけて元の星系のマップに再登場する。Planetoidは戻ることは出来ない。

An-Nur星系

 An-Nurの軌道を考慮するとトラベラーの上級ルール偵察局[2]にある恒星のスペクトル型と公転軌道から公転周期を求める数式(単独星系のケプラーの法則)よりも公転周期は長くなる。Al-Ruzzakは半径1ヘクスの公転軌道とすると12ターンで1周する。Al-Mughniは半径2ヘクスの公転軌道を24ターンで1周する。Al-Mumitは半径4ヘクスの公転軌道を72ターンで、Al-Akhirは半径5ヘクスの公転軌道を90ターンで1周する。

Chin星系

 I「益」とChien「乾」は半径2ヘクスの公転軌道を48ターンで、Ta Yu「大有」は半径4ヘクスの公転軌道を120ターンで1周する。そしてK'an「坎」は半径5ヘクスの公転軌道を210ターンで1周する。

 彗星(Comet) Lu「旅」は長軸半径が3 AUの楕円軌道を221ターン(9.2年)で、彗星K'un「困」は長軸半径が3.5 AUの楕円軌道を278ターン(11.6年)で1周する。
 彗星(Comet) Lu「旅」は長軸半径が3 AUの楕円軌道を191ターン(8年)で、彗星K'un「困」は長軸半径が3.5 AUの楕円軌道を279ターン(11.6年)で1周する。

Lu「旅」及びK'un「困」の公転ターンの確認方法
Luが公転した次のターンのInterim phaseにLu公転マーカーをChinヘクスに置く。同様にK'unが公転した次のターンのInterim phaseにK'un公転マーカーをChinヘクスに置く。次ターンからInterim phaseに公転マーカーをLu / K'un の駒に近ずくように1ヘクス移動させる。Lu公転マーカーがLu 駒のヘクスに到着したInterim phaseにLu 駒を1ヘクス公転させ、Lu公転マーカーを取り除く。K'un公転マーカーがK'un 駒のヘクスに到着したInterim phaseにK'un 駒を1ヘクス公転させ、K'un公転マーカーを取り除く。

Chin星系のオーバーレイ: Chin.pdf

References

[1] Y. Hayakawa: Pythonプログラミング(三体問題)
[2] M. W. Miller, F. A. Chadwick, J. Harshman, L. K. Wiseman: TRAVELLER Book 6 Scouts (GDW: 1983).
[3] R. Camino: J. Traveller’s Aid Soc. No. 3, pp. 12 (1979). バリアント
[4] M. W. Miller, J. Harshman: Trillion Credit squadron TRAVELLER, Adenture5 (GDW: 1980).
[5] M. W. Miller, F. A. Chadwick: Belter rules booklet (GDW: 1979).
[6] M. W. Miller: Mayday rules booklet (GDW: 1978).
[7] B. Hessel, R. A. Simonsen: Battle Fleet Mars rules booklet (SPI: 1977).
[8] K. Ueda: "Reduce the playing time of the Belter" (2021).
[9] I. Czekala, et al.: Astrophysical J., 883:22 pp. 24, (2019).

この論文を執筆中に、太陽の軌跡が惑星の公転面の垂直であるとの動画を見る機会があった。Double Starの連星も惑星の公転面と垂直方向に恒星軌道を持っているかもしれない。しかし、次の問題があり、Double Starの連星軌道と惑星の公転面を平行とした。1. 最近の観測結果として周連星惑星の公転面が連星の軌道面と平行とする報告があること[9]、2. 太陽系の惑星と衛星を見ると、全ての惑星の軌道傾斜角(太陽の自転軸と惑星の公転軸のなす角)とほとんどの衛星の軌道傾斜角(惑星の自転軸と衛星の公転軸のなす角)が7°以内と小さいこと、3. 連星系が(π / 2)だけ周回すると、Would / Planetoidの公転軌道がマップを上下に重ねたような配置になること。

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