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1979 Double Star

Double Star [GDW]

"Double Star" was designed by Marc W. Miller and published from Game Designers' Workshop (GDW) in 1979. This is a simulation game of the interplanetary war in a binary system. However, the simulation does not follow Kepler's laws. The game has an original space combat system using a command ship and formations.

 私がGDWのSci-Fiゲームのコレクションをはじめた1980年代後半、GDWの古いゲーム・リストにある"Double Star"というシミュレーションを見て、ロバート・A・ハインライン(Robert A. Heinlein)著の「宇宙の戦士 (Starship Troopers)」と同じように、ヒューゴー賞受賞小説「ダブル・スター」を背景として、どの様なシミュレーションをMarc Millerがデザインしたのだろうと想像していた。天文学では二連星をBinary starと呼ぶため、"Double Star"と「二連星」という邦題のゲームが、私の中で全く繋がらなかった。届いたGDWの平箱 (11 x 14 x 1 inch)を見て、"Double Star" =「二連星」と知り、「Marc MillerがTRAVELLER宇宙以外で遊ぶ訳が無い」と気付けなかったことが残念であった。

 Double Starは、クジラ座ε星(Epsilon Cetus)のG0型恒星のEpsilon Cetus A星系に亜光速植民船で到着したイスラム系移民団と、50年遅れて隣のM8型恒星のEpsilon Cetus B星系に植民した中国系移民団との間で発生した星系内根絶戦争のシミュレーションである。光速を最高速度とする宇宙で複数の勢力が戦争する状況は、谷甲州著「航空宇宙軍史」のような太陽系内での内戦以外では、連星系の別々の恒星に別々の勢力が植民し亜光速恒星間戦争を戦う、荻野目悠樹著の「双星記」しか知らない。Double Starの連星(G0矮星とM8矮星)は10 AU(太陽系に当てはめると土星が9.55 AU)、5000光秒離れているため、情報共有には問題が無いが、Task Force (機動部隊)等の艦隊移動に5ヶ月を必要とする。これは部隊を送り出すと簡単に修正が利かない「亜光速恒星間戦争」のもどかしさを巧く演出するスケールとなっている。

 Fig. 1は、私が所有している1982年にホビージャパンが和訳付きで輸入販売した、1979年版"Double Star"である。平箱(11 x 14 x 1 inch)のカバーアートはSteve Leialoha によるものである。2つの恒星と公転軌道が描かれていて、連星系内での亜光速戦争を連想させる。マップを見ると、公転軌道が楕円ではなく長円である点、連星の公転が無い等、連星系のシミュレーションとしては気になる点がある。


Fig. 1 Game components of "Double Star"
Box cover was illustrated by Steve Leialoha.

 Double Starの特徴は、惑星がマップ上を公転する星系内戦争(惑星間戦争)らしさと、Command Ship(司令艦)とFormation(隊形)による艦隊戦にある。また、地上軍を無くすことで、市民の抵抗や地上軍への補給の問題等を省略し、結果的に戦争の目標を「敵の惑星地表を更地にして再植民する」ことに収斂させて、戦争シミュレーションのモデルを単純化している。

 一方で、入植環境(G0矮星とM8矮星)に違いをつけ、更に入植時期に50年の時差つけ、そのうえ背景としてイスラム的思想と中華思想(共産思想かもしれない)の色分けをしているのに、両軍の兵器性能や艦隊戦術に違いがない点や、地上軍部隊が登場しない点(陸軍を上陸させることなく砲爆撃だけで、本当に惑星を攻略できるのか?)、宇宙船の移動に移動力を用いる(宇宙は真空・無重力なのに、指令艦、戦艦、駆逐艦や輸送船は130 km/s, 巡洋艦や巡洋戦艦は190 km/s, 武装輸送船は350 km/sと宇宙船の種類により速度上限が異なる)点など、シミュレーションとして気になることも多々ある。

 Sneak Attack(奇襲)シナリオとRaid(襲撃)シナリオは、編制艦艇数が少ないため、Command ShipとFormationによる艦隊戦を1〜2時間で感じられる手軽なシナリオである。

 Armageddon(アルマゲドン)シナリオは、敵の12億(1,200百万) ~ 15億(1,500百万)人の人口を4億(400百万)人まで減らすことが目的のオープン・エンド・ゲームである。ゲーム内では、Planetoid (小天体/衛星/小惑星)をWorld (大天体/ワールド/惑星)に衝突させる「小惑星落し」が提案されている。惑星表面の20%を破壊する威力は、テレビアニメの「コロニー落し」や「遊星爆弾」よりも強力である。

 Centennial(百周年)シナリオは、Armageddonから100年後に再戦するバリアントで、Chinの太陽フレアで射線上の惑星を含めた全てを焼き尽すイスラムの秘密兵器が登場する[1]。鷹見一幸著「宇宙軍士官学校 -前哨-」で描かれた居住惑星を焼失させる恒星反応弾以上の絶滅兵器である。

 Double Starを入手した後で、高校同窓の2DAが過去に持っていたと教えてくれた。二連星に対する彼の評価は、私とのプレイ候補に入れること無く手放すほど低くかった[2]。Double Starは当時のシミュレーションに良くある事前計画が重要なゲームである。しかし途中で計画が破綻しても計画変更が困難な上にプレイ時間の長いゲームなので、楽くしプレイするには経験が必要である。私は亜光速で惑星間を移動するシミュレーションとしては、Battle Fleet Marsの方がDouble Starより優れたシミュレーションだと思うが、当時のゲーム・レビューには「筆者がこれまでプレイしたSci-Fiゲームの中で、最も堅実なゲームの一つである。この種の戦争で予想される主要な戦略的考察をすべて含んでおり、よくまとまっている」「最近プレイしたゲームの中で最も楽しかったゲームの1つである。良いシミュレーションであることも言うまでもない」と書かれている、当時の良作である[3-5]。

 ゲームの紹介はB級SFゲーム分科会 が参考になる。斬新な艦隊戦システムを評価しているが、Sci-Fiゲームとしての評価は辛い。Board Game Geek の評価は6.1と古いSci-Fiゲームとしては普通の評価である。


イプシロン・セチ

 実際のクジラ座ε星とDouble Starのイプシロン・セチは異なっている。実際のクジラ座ε星(Epsilon Cetus)はF2 V型の主星と公転周期2.65年、長半径0.11 AU、離心率0.23の伴星からなる分光連星である。Double StarのスケールだとAn-Nurのヘクス内に伴星が存在することになる。周回する惑星は、周連星惑星 (Circumbinary planet)となる。また地球からの距離は、Wikiでは28.5パーセクとなっているが、1997年に27パーセク、2007年に21.5パーセクに修正されている[6]。

三体問題

 Double Starは、G0型の"An-Nur"(女后: Kou)とM8型の"Az-Zar"(晋: Chin)の2恒星が10±0.5 AU (太陽系に合わせると太陽から9.55 AUに土星がある) の距離にある連星系として描かれている。星系内に木星型ガス惑星が無いのは、巨大なガス惑星が形成され、自身の重力によりコアで核融合が始まり赤色矮星Chinとなった連星形成モデルが推測できる。G0矮星の質量は太陽の1.04倍、M8矮星の質量は太陽の0.302倍である[7]。この連星はAn-Nurから2.25 AU(4.5ヘクス)の位置を中心に327.5±24.5ヶ月(25.3 ~ 29.4年)で1周する。「太陽と地球と月のシミュレーション」[8]を参考にDouble Star連星系の惑星軌道シミュレーションを作成した。シミュレーションにより、An-NurとChinが公転しているため、トラベラーの公転周期計算式[7]より1周に必要な時間が長くなることがわかった。

 連星の離心率を0としてシミュレーションすると、An-Nur 星系のAl-Ruzzakは半径0.6 AUの公転軌道を6ヶ月で、Al-Mughniは半径1.0 AUの公転軌道を12ヶ月で1周する。Al-Mumitは半径2.0 AUの公転軌道を36ヶ月で、Al-Akhirは半径 2.5AUの公転軌道を45ヶ月で1周する。そしてChin星系の惑星 Chien「乾」とその衛星 I「益」は半径 1.1 AUの公転軌道を24ヶ月で、Ta Yu「大有」は半径 1.9 AUの公転軌道を60ヶ月で、K'an「坎」は半径 2.6AUの公転軌道を105ヶ月で1周する(端数はDouble Starに合わせて処理した)。

 一方、Lu「旅」とK'un「困」は星系内に存在できない。G0矮星とM8矮星の重力場の平衡面は、An-NurとChinを結ぶ直線を垂線とする平面で、Chinから3.50 AUの距離となる。このため遠日点がChinから3.502 AU以上となるChinを公転する軌道は存在できない(An-NurとChinは公転しているため、遠日点の位置を変えても影響しない)。そのような天体はAn-Nurの惑星となるか、星系から弾き出されて、浮遊惑星として宇宙を旅することになる。Double Star連星系の惑星軌道シミュレーションを用いて、LuとK'unの公転軌道が存在できる星系モデルをBinary Starとして検討した[9]。

 またルール上、Planetoidはマップ上に描かれた公転軌道上の何処ででも軌道上にのせることができる。しかし、実際の公転軌道上で安定している位置はラグランジュ点 (Lagrangian point) L3, L4, L5とWorldの衛星軌道なので、L3, L4, L5上またはWorldの衛星軌道にしか置けないことにルールを変更するのが妥当である。L3は公転するWorld から直線を恒星に延長し、さらに延長して反対側の公転軌道との交点である。L4, L5は恒星とWorldを結ぶ直線と60°方向の公転軌道上の点(ラグランジュ点と恒星とWorldで正三角形ができる)である。

LuとK'unの軌道を使わないセットアップ案:
中国系移民団が浮遊小惑星を資源目的で深宇宙から軌道上に移動させたと考える。中国プレーヤーはゲーム開始時に、LuをChien / IまたはTa Yuの公転軌道上のL3に配置する。K'un - 衛星AをChien / IまたはTa Yuの公転軌道上のL4またはL5、その両方に配置する。
Centennial(百周年)シナリオでは、Luは5つの小惑星グループなっている。アラブ軍プレーヤーがゲームの開始時に、Ta YuのL3ヘクスとL4ヘクスと軌道沿いに隣接するヘクス、L5ヘクスと軌道沿いに隣接するヘクスの7ヘクスからから5ヘクスを選んで配置する。

Double Starの惑星からの景色

 An-Nur 星系から見たAz-Zar (Chin)は満月の半分程度の明るさなので、Az-ZarがAn-Nur 星系のハビタブル・ゾーンに与える影響はほぼない。An-Nur星系のハビタブル・ゾーン内にあるWorldはAl-Mughniだけである[7]。Al-RuzzakはAn-Nurが太陽の2.5倍の光量で照らすWorld、Al-MumitはAn-Nurが太陽の25 %位の光量で照らすWorldである(太陽系の場合、金星での太陽の光量は地球の約2倍、火星での太陽の光量は地球の45 %位)。Al-RuzzakとAl-Mumitはイスラム系移民団がテラフォーミングで温暖化ガス、反射率を調整して居住可能にしたと考えることができる[7]。An-Nur星系のWorldの昼は、地球と同じ様にAn-Nurが照らし、夜は赤いAz-Zarが半月〜三日月位の明るさで照らす世界である。地球の月と異なり、季節によりAz-Zarが昇る/沈む時間が変わる。ワールドの大気中には酸素、窒素があり、海洋ヘクスは水が満たし、極には氷があると考えられる。

 Chin星系のハビタブル・ゾーン内に惑星は無い。そしてChin星系では昼夜の定義が逆転しているかもしれない。 Chienから見たChinは満月の30倍、Ta Yuからは満月の10倍の明るさ、地球の日沈後位の明るさである(地球から見た太陽の明るさの0.1 %未満)。Chienから見たKou(An-Nur)は満月の480 ~ 320倍の明るさがあり、Ta Yuからは満月の580~280倍の明るさもある。これは明かるい室内以上の明るさなので、Kouが出ている間が昼(本来は夜)になる。Chin星系のWorldにとってKouは太陽の1.5 ~ 0.7 %、Chinは0.08~0.03 %の熱源でしかないため、Chin星系のワールド惑星は基本的に極寒である。アンモニアや二酸化炭素の氷床で被われ、海洋ヘクスは液化したメタンが満たし、メタンの雨やアンモニアの雹が降っているかもしれない。Kouが昇りChinが沈む季節が夏で、ChinとKouが同時に昇る季節は冬となる。ChinとKouの両方が沈む極夜には液体窒素の雨や雪が降るかもしれない。

トラベラー未来史

 地球人類が星間宇宙に乗り出してまだ間もない頃、亜光速船による遠大な他星系植民計画が立てられた。この計画はジャンプ航法の実用化(AD2089)により放棄されたが、計画中止以前にいくつかの植民船団が地球を飛び立った。ヨーロッパ宇宙機構(ESA)とフランスのオニール・コロニー、そして小惑星帯開発局が協同計画した最大規模の植民船団は、2050年に地球を飛び立ち、AD4512~4518にオールド・アイランド星域に到着した[10]。アイランド星団と地球の直線距離は約140パーセクなので、植民船団の平均速度は光速の20%位となる(Imperiumの亜光速移動: 0.25パーセク/年だと560年で到着)。

 Double Starの背景として登場するイスラム系移民団と中国系移民団も計画中止以前に地球を飛び立った植民船団と考えられる。クジラ座ε星までは、光速の約80%で100年前後、光速の20%で400年位かかる。Double Starの舞台は、イスラム系移民団到着から200年後、中国系移民団到着から150年後なので、移民団が地球を出発してから300~600年後、AD2340年以後の物語となる。しかし、トラベラー未来史は第1次恒星間戦争開始から200年後のAD2314に「人類の支配」が始まる。地球から30パーセクしか離れてない近隣星系に、ジャンプドライブを持った地球人が到達していないのだろうか?

 地球から見たクジラ座方向は、リム・スピン・リム方向(北をコア方向、西をスピン方向として南西南方向)なので、恒星間戦争の侵攻方向とは逆方向である。このため地球の近隣星系とはいえ、逆方向のクジラ座ε星に、地球人がジャンプドライブで到達してない可能性は十分にある。また別の可能性は、クジラ座ε星に向った植民船団が、(アイランド星団に到達したヨーロッパ移民団と同じ様に)宇宙を数百年から数千年間さまよい、リム方向の未踏宙域にある全く別の孤立した連星系Double Starに到達した場合である(この場合はスペクトル型の違いも説明できる)。

 Double Starは、Sci-Fi シミュレーションとしては破綻している[9]。しかし、Sci-Fiウォーゲームとしては、どちらの背景を想定しても十分楽しめる!

References

[1] R. Camino: J. Traveller’s Aid Soc. No. 3, pp. 12 (1979). バリアント
[2] Editor's box "Give away games": TACTICS Jpn. Ed. No. 14, pp. 102 (1984).
[3] W. Fawcett: The Dragon #35, pp.50 (1980).
[4] R. G. F. Marrinan: The Space Gamer #30, pp. 24 (1980).
[5] D. Ritchie: Ares Magazine #1, pp. 31 (1980).
[6] Stars Planets and the Universe Guide.
[7] M. W. Miller, F. A. Chadwick, J. Harshman, L. K. Wiseman: TRAVELLER Book 6 Scouts (GDW: 1983).
[8] Y. Hayakawa: Pythonプログラミング(三体問題)
[9] K. Ueda: "Astrophysics for Double Star" (2023).
[10] M. W. Miller, J. Harshman: Trillion Credit squadron TRAVELLER, Adenture5 (GDW: 1980).


1. GDW Sci-Fi Games
Double Starの天体物理
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