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目的と目標

Milestone and goal

キャンペーン(戦役)とゲーム(戦争)

 1977年6月にConflict Game Co.が初版出版したImperiumは、戦略研究クラブの1977年最優秀ゲーム賞を受賞した。受賞記念の記事やG. Cotikyanのインタビュー記事で、Marc W. MillerはImperiumをmy best gameと言っている[1, 2]。また、1977〜78年に米国ゲーム誌上でも特集記事等が執筆されている[3-10]。私が集めた米国ゲーム誌のレビュー記事や日本国内の研究記事によれば、Imperium/インペリウムの勝敗バランスは、帝国有利が通説である[3, 10-12]。日本では「ゲームのバランスの悪さと、ゲームとして面白さとは、別のことではあるが、バランスの悪さを理由に、低い評価をする人が居ることも事実である。インペリウムをゲームバランスの観点から駄作呼ばわりさせないためにも、なんらかの形で初期移動の定石研究・紹介をするべきである」との話を同人誌ゲームジャーナルの編集者であった松家氏談として又聞く程度には、バランスの悪さはインペリストの間でも問題として認識され改善案が模索されている[12-16]。しかし、2019年のインペリウム再版時にバランス改善案が採用されてないことから、K2編集者を含めた多くプレーヤーが満足する解決策になってないのだと思う[17]。一方で米国のゲーム誌上でバランス調整の修正ルール案は見た事がない[18-24]。

 私を含めた国内の多くのインペリストは、Imperiumの「ゲーム」=「キャンペーン」と考え、プレーヤーは「キャンペーンの勝利」を目指している。この場合、帝国プレーヤーが個々の戦争に負け続けてキャンペーンに勝つ戦略、いわゆる「負けて勝つ戦略」が最適戦略となる。Marcへの質問でも "I agree, if the Imperial player wants to win the entire campaign, this strategy has a strong possibility of winning."と回答を得ている[30]。Marcも帝国プレーヤーがキャンペーン全体に勝ちたいなら、これが良い戦略であることを承知している。

 実際のImperium は「ゲーム」≠「キャンペーン」である。英文ルール 3. The game / Introduction の第1パラグラフに、"A single game involves a single war."とあるように、「1ゲーム」=「1回の戦争」と定義されている[25-27]。

 Imperiumにある2つの勝利、「戦争(ゲーム)の勝利」と「キャンペーン(戦役)の勝利」について考えると、「シミュレーション・ゲームとしてのImperiumは、なにをシミュレーションしているのだろうか?」と考えることになる。M. Millerが、百数十年にわたる複数回の戦争の先の勝敗を見通す人間離れした、現地の部下(属州長官は戦争終了時に異動するので、属州から異動しない現地の補佐官か参謀) の宇宙エルフ(?)という視点を、シミュレートしているとは考え難い(少なくとも、Travellerに寿命数百歳の宇宙エルフ長寿命種族は登場しない)。幸運にも私は、Imperiumの2つの勝利とプレーヤーの関係について、多くの人と議論し多くの示唆を得ることができた[16]。

Imperiumの目的(ゴール)

 Imperiumの目的は、英文ルール 3. The game / Introductionの最後のパラグラフ " A campaign consists of several wars and ends only with the conquest of the entire star map. While a war may be fought in an evening, a campaign is fought over the course of several weeks. "と、13. War and peace中のパラグラフ "Imperium is intended to be a campaign game consisting of a series of wars fought until one side controls the entire board. Succeeding games continue until the campaign won." に書かれている[25-27]。「キャンペーンはいくつかの戦争で構成され、宇宙地図が完全に征服されたときに終了する。1つの戦争は、1晩でプレイできるが、キャンペーンをプレイするには数週間かかる」、「インペリウムは、一連の戦争で構成され一方の陣営がボード全体を支配するまで続くキャンペーンを目的としている。後続のゲーム(戦争)はキャンペーンが決着するまで続く」と訳せる。日本語ルール[15, 17, 28, 29]では版により訳が異なっているが、ここで明確なのはImperiumの目的がキャンペーンであること、つまりImperiumのゴールはキャンペーンの終了ということである。そしてキャンペーンを終了させるには、一方の陣営が宇宙地図を完全に征服する必要がある。

孤立星系に立て籠る帝国属州

 2012年に「帝国の晩節」として、「キャンペーンの勝利」を目的とした帝国プレーヤーが、1個のワールドに立て籠もり、地球プレーヤーに引き分けを強いる方法を紹介した[31]。もう1つ似た方法を紹介する。「帝国プレーヤーがLuuru星系に前哨基地を設置し、毎ターン直訴する」、それだけである。Luuru星系は、ジャンプ路の繋がっている最も近いMIRABILIS星系から5ヘクス離れている。つまり、MIRABILIS星系から亜光速移動で出発した攻略艦隊がLuuru星系に到着するのは最速で第5ターンの地球プレーヤー第1移動フェイズである。帝国プレーヤーが毎ターン直訴すると、第4ターン終了時の功績ポイントは1ポイント以下にできる。つまり、Luuru星系攻略艦隊は旅の途中、または第5ターン終了時に休戦となる(Imperiumの平和時ルールに従うと、この艦隊に含まれるモニター艦は除去され、ジャンプ可能な宇宙艦はSOLとGASHIDDAに移動させることになる)。

 これらの方法を取り上げるのは「帝国が負けない」からではない。Imperium本来の目的である「キャンペーンの終了」ができないからである。つまり、地球プレーヤーは、帝国プレーヤーの協力無しには「キャンペーンの終了」を迎えることができないのである。「銀河帝国辺境史」を完成させるには2人のプレーヤーが協力が不可欠である

ホビージャパンが出版したインペリウム第1版日本版1985ルールは、Luuru星系、Smade's Star星系と帝国の接続に関するルールが削除されている[29]。この削除により、帝国がLuuru星系、Smade's Star星系に前哨基地を設置しても、平和時に保持不可能となり、前哨基地が除去される。したがって、この方法は成立しない。

Imperiumの戦争(ゲーム)

 Imperiumの「1ゲーム」は「1回の戦争」である、「キャンペーン」ではない。つまり、Imperiumにおける「ゲームでの勝利」は「戦争での勝利」となる。

 M. Millerらデザインチームはプレーヤーの立場をどの様に考えていたのだろうか? 功績ポイントルールに各戦争での帝国プレーヤーの立場を示している内容の記述がある。英文ルールの11. The glory indexの第2パラグラフに、"The provincial governor is thus simultaneously a person of great power and great ambition. He is vitally concerned with imperial recognition of his efforts and achievements, to insure his career. This concern is reflected in the glory index, which indicates the current level of recognition ( and degree of esteem) the Emperor and the bureaucracy hold for the governor."、「属州長官(総督)は、大きな権限と大きな野心を同時にもつ人物である。彼は、自分の経歴を守るために、自分の努力や成果が皇帝に認められることを非常に重視している。この関心は、皇帝と官僚が属州長官に対して抱いている現在の評価レベル(敬意の度合い)を示す功績ポイントに反映されている」と書いてある[25-27]。

 また、Marcは、1977年最優秀ゲーム賞受賞記事の中で、"By making the Imperial territory on the map a frontier, it became its own little microcosm, run by a provincial governor who was supreme ruler in his own right, but still answerable to the Emperor and his bureaucracy. That was certainly different from the opposing situation, where the Terran had effectively free reign on what he wanted to do. At this point, John Harshman pointed out the glory point rules in Timbuktu, and said any provincial governor for the Imperium is going to be concerned with status and glory rather than money or more worldly things. By using glory points we could easily note how well (or poorly) the Imperial effort was going: if the points got very high, the Emperor would be pleased, while if they declined, the Emperor would be displeased. Displeasing an Emperor can be fatal. In either case, glory points emerged as a sort of victory point and game length indicator."、「地図上の帝国の領土を辺境にすることで、そこは属州長官がその権限で支配者として統治する箱庭小宇宙となり、その属州長官が皇帝とその官僚に従うことになった。この状況は敵である地球人が実質的に自由に行動できるという状況とは明らかに異なっていた。ここで、ジョン・ハーシュマンは、「Timbuktu」の功績ポイントのルールを指摘し、帝国属州の長官(総督)は、お金や世俗的なものではなく、地位や栄光に関心を持つだろうと述べた。功績ポイントを使えば、帝国属州の長官の努力がどれだけうまくいっているか(あるいはうまくいっていないか)を簡単に示すことができる。ポイントが非常に高くなれば皇帝は喜び、ポイントが下がれば皇帝は不機嫌になる。皇帝の機嫌を損ねるのは致命的である。いずれにしても功績ポイントは、勝利点とゲームの長さを示す指標のようなものになった」と書いている。

 Marcらデザインチームは、帝国プレーヤーの立場が属州長官で、その関心事がキャンペーンでの勝利、つまり「帝国による地球の征服」ではなく、自身の「地位や栄光」にあると考えていたこと、功績ポイントを勝利ポイントとゲームの長さ指標して機能させていたことが分かる。私の考えつく属州長官の「地位や栄光」は、1. 中央政界の元老院に栄達して有力者となる、2. 複数の属州をまとめる総督への栄達である。そして手段は1. 地球連邦の降伏、2. SOLの占領、3. 他ワールドの占領、4. 前哨基地の破壊である。この考え方に従うと、たとえ地球プレーヤーがキャンペーンゲームの勝利を目指すとしても、帝国プレーヤーは、個々の戦争で「功績ポイントの最大化」と「この戦争中のワールド征服」を目指す必要がある。これが私の考える帝国プレーヤーの目標といえる。

 Imperiumには色々な楽しみ方があり、Marcも認めているように、私もキャンペーンの勝利を最優先とするプレイを否定するつもりはない。

MPG-NetのImperium

 MPG-NetのImperiumは、ヘルプファイルから平和やキャンペーンに関するルールが丸ごとカットされ、ゲームの目的が「第1次恒星間戦争の勝利」だけに限定されていた[32]。このため、MPG-NetのImperiumは「勝敗を争うゲーム(戦争)」について多くの示唆を与えてくれた。「第1次恒星間戦争の勝敗」だけを争うゲーム(以後、第1次恒星間戦争シナリオと呼ぶ)をプレイすると、キャンペーンとは異なるゲーム(戦争)が展開され、その対比は面白い。第1次恒星間戦争シナリオをプレイすると、「第1次恒星間戦争に勝利する」戦略と「キャンペーンに勝利する」戦略との違いを意識することができる。その中で、Imperiumにおける功績1ポイントが、第1次恒星間戦争シナリオでは1勝利(VP)ポイントだが、キャンペーンではゲーム時間調整1ポイントと、重さの違いを感じた。例えば、インペリウムのルール[15, 27-29]に従うと、第1次恒星間戦争シナリオの地球プレーヤーは未設置の前哨基地を設置しない場合がしばしば発生する。これはProcyonを守るのが困難と考えた地球プレーヤーが、帝国プレーヤーに前哨基地除去による功績(VP)ポイントを与えないための戦略である。このとき、帝国プレーヤーが獲得可能な功績(VP)は、前哨基地(Barnard's star、Proxima centauriかJunction)攻略によるポイント、又はワールド(SOL、ALPHA CENTAURI A/B)占領によるポイントに限られる。このため帝国プレーヤーには、直訴に消費する勝利(功績)ポイントの余裕はない。

 増援を得るためにVPを消費するウォーゲームはあるが、Imperiumの直訴はVPと支援内容の交換レートが低い。第2版ルールでは直訴に必要な勝利ポイント(VP)が2ポイントなので、前哨基地を2個破壊するのと等価である[26, 32]。つまり、直訴でVPの収支がプラスになるのに必要な財政支援・戦力増強は、地球の前哨基地の全て(Barnard's star、Proxima centauriかJunction)を破壊できる、もしくは1個のワールドを占領・中立化することが可能な支援ということなる。これは、1回の直訴で5 RUの予算増額、またはBBを3ユニット受け取る位のリターンが 必要である。どちらの確率は1/36である。つまり帝国プレーヤーには、直訴に勝利(功績)ポイントを消費するメリットは、ほとんど無い。

次回以後の内容だが、接続の両端の解釈により、地球プレーヤーにとって、Procyonに前哨基地を設置した方がProcyonを守れる可能性が高くなった。Procyonに前哨基地があることで、生産した宇宙艦をProcyonに配置でき、恒星ヘクスの帝国宇宙艦を無視してSIRIUSに進出できる。このため第1次恒星間戦争シナリオにおいても、地球プレーヤーがProcyonに前哨基地を設置することは必然となっている。しかし、シナリオとキャンペーンで直訴に対する考え方の違いはそのままである。

Red box Imperium [GDW Edition revised 1990]

 GDWは、Red box Imperium [GDW Edition revised 1990] で直訴に必要な功績ポイントを1から2に増やす、財政強化の予算増額をその戦争中に限定する等の修正により、直訴(特に財政強化)するのを難しくしている。これはプレーヤーのキャンペーンでの直訴に対する意識をゲーム(戦争)での意識に近づける試みと思われる。このGDWの修正はキャンペーン全体のバランスよりも、ゲーム(戦争)とキャンペーンのズレを小さくすることを優先した結果とも考えられる。

 しかし、Red box Imperium でも「第1次恒星間戦争」シナリオの展開とキャンペーン中の「第1次恒星間戦争」の展開は大きく異なる。この原因は主に勝者デメリット(平和時の予算が半額)によるものである。これは帝国プレーヤーの「ゲームに勝利する」ことへのモチベーションの問題である。平和時の予算で勝利への意欲をあげる方法も1つである[14]。しかし、この方法では宇宙エルフの属州補佐官/参謀の視点を属州長官の視点に変える迄には至ってない。1970〜80年代のデザイン技術で、ゲームバランスが取れた状態で、帝国に「戦争に勝利」しながら「キャンペーンに勝利」することを目指させる、Imperiumのルール作りは難しい。Marc達は、Imperiumがその時々の為政者や軍人が目前の「戦争に勝つ」ために最善を尽くすことをシミュレートし、その積み重ねがImperiumのキャンペーンになると考えていたと、私は思っている。その意味で「ゲーム(戦争)に勝利する」ことがプレーヤーの目標(マイルストーン)で、ゴール(目的)が「キャンペーン(戦役)の終了」、Imperiumの勝敗は「勝利の積み重ね」と考えている。

高梨俊一が、新シミュレーション批判序説の中で「ジム・ダニガンはシミュレーションがしたいからゲームを作る。ゲームはシミュレーションを成立させる手段である。〜中略〜 多くのゲーマーにとってのシミュレーション・ゲームはゲームを楽しむための道具である。ダニガンにとってのシミュレーション・ゲームはシミュレーションを楽しむための道具である」と書いている[33]。この言葉は、シミュレーション・ゲームとウォーゲームの違いを示唆している。そしてImperiumの2つの勝利を理解する上で非常にに役立った。

多くのゲーマーにとってのImperiumはウォーゲームを楽しむための道具であり、Imperium全体をゲームとして捉える。そのためImperium = キャンペーン・ゲームとしてプレイされる。各戦争を単独のウォーゲームとして楽しむ分解能は無い。

Marc達は、恒星間戦争のシミュレーションしたいからImperiumを作った。Imperiumのゲーム1回では目的(全マップ制圧)を達成できないので、目的を達成するまで結果を積算できるようにInterwarのルールを作った。このように考えるとImperiumにおける勝利の2重構造とプレイ時間の長さが理解できる。ゲーム(戦争)の結果の積み重ねが戦役(キャンペーン)/歴史になる。

MPG-NetのImperium[32]とDark Nebula [34]は、Imperiumからゲーム(戦争)の外側にあるキャンペーン(戦役)を無くして、戦争での勝利 = ゲームでの勝利として、1つのウォーゲームにしている。

2023/06/25 追記

Imperiumのシナリオ

 シナリオを考える上で、「勝利の積み重ね」、つまり個々の戦争で得た勝利ポイントをシナリオ終了時やキャンペーン終了時に合計し、その多少で勝敗を争うのは、シナリオの方向性として合っていると思う。シナリオの勝利レベルを考えると、Imperiumのゲーム(戦争)は帝国の都合だけで勝敗が決まっていることが分かる。そこで帝国プレーヤーの勝利レベルは「勝利の積み重ね」を反映して、合計VPが大きいほど高く設定した。地球プレーヤーの勝利レベルは、戦争の勝敗数ではなく、盤面の状態になっている。これは私の思考がキャンペーンから離れられないことと、地球から盤面の変更以外の方法で勝敗(功績ポイント)に影響を与えられないからである。

キャンペーン・シナリオ

 多くの人が語るインペリウムの面白さは、脈々と戦争を繰り返すところなので、マップ制圧までのインペリウム・キャンペーンより短いキャンペーン・シナリオを提案する。シナリオ開始条件は1. 「最初の恒星間戦争」、2. 「転換点」、 3. 「終りの始まり」から選択する。

 地球は戦争に勝利すると1 勝利ポイント(VP)を得る。帝国は、戦争に勝利したゲーム・ターンによって勝利ポイントがTable 5-1に従って変化する。シナリオ期間内にマップを全て支配して、キャンペーンが終了した場合は、キャンペーン勝者はボーナスとして0.3VPを得る。

ショート・キャンペーン

 恒星間戦争が3回終了までキャンペーンをプレイする。シナリオが終了した時点で、それまでに獲得したVPを比較し、大きなプレーヤーがシナリオ勝者となる。

ミドル・キャンペーン

 5回の恒星間戦争終了までキャンペーンをプレイする。シナリオが終了した時点で、それまでに獲得したVPを比較し、大きなプレーヤーがシナリオ勝者となる。

Table 5-1 Effect of time on victory points

Game turnTerran win Imperial win
1~31.01.0
41.00.9
51.00.8
61.00.6
71.00.4

シナリオ1: 最初の恒星間戦争

シナリオ2: 銀河の扉

シナリオ3: 終わりの始まり

シミュレーションからウォーゲームへ
地球の思惑と属州長官の野心

 第1次恒星間戦争シナリオの第8ターンに帝国がProcyonに攻め込んでいた。しかし、前哨基地の惑星防御射撃が非常に良く命中して、惑星地表ボックスに降下できた地上軍の数で帝国が劣り、時間切れで地球の辛勝となる場面(功績5ポイント)だった。地球プレーヤーから帝国プレーヤーに「ゲーム内容では完負だったから、Procyon陥落、帝国勝利で良いよ。その代わりにもう1勝負しょう」との提案があり、帝国プレーヤーがこの提案を受け入れた。次の第1次恒星間戦争シナリオの準備を始めようとしている帝国プレーヤーに、地球プレーヤーが「第2次戦争だよ」と言い、帝国プレーヤーを唖然とさせていた。

 この話は、私に短期的な帝国と長期的地球、この視野の違いをImperium上で再現するための一つの気付きを与えてくれた。外交を含めた休戦交渉の中で、属州長官に「地位や栄光につながる成果」を地球側が約束することで休戦できる場合があることを示唆していた。地球の外交部から属州長官に「XX星系の地球前哨基地を攻略し、功績を6ポイントとして休戦、そして戦争に勝利して栄転して下さい。地球軍はXX星系攻略の輸送艦通過を妨害せず、XX星系から地上軍も引き上げます」と提案があれば、属州長官はその提案を受けるということである。この提案は地球と属州長官にとって両得の政治・外交判断になる。しかし、キャンペーンをコントロールしている宇宙エルフの部下(補佐官/参謀)視点では、最悪の判断といえる。

 今のImperium/インペリウムのルールでは、属州長官の栄誉のために、功績1ポイントを前哨基地1個と交換するようなことはできない。もし地球プレーヤーに功績ポイントを増やす手段があれば、先に示した属州長官の政治判断も再現できる。そして帝国プレーヤーの視点を属州長官の長寿な部下(補佐官/参謀)に移し、上司である属州長官の判断に追随させられる中間管理職の悲哀を、帝国プレーヤーが今まで以上に味わえるようになる。

 私も、Imperiumキャンペーンにおいて帝国プレーヤーが負け続ける理由は、平和時予算の優劣にあると考えていた[14]。良く考えると、功績を減らしたくないはずの属州長官の立場であるはずの帝国プレーヤーが功績を意図的に減らせるから、帝国がゲームに負けるである。功績ポイントを増減させる手段を帝国プレーヤーから、地球プレーヤーに移せば、属州長官は勝利できるようになる。

 地球プレーヤーは「帝国軍により前哨基地が攻略された」として前哨基地(末設置も可)を除去し、功績ポイントを+1ポイントすることもできると考えられる。これは(帝国プレーヤーは嬉しくないかもしれないが)属州長官には嬉しいプレゼントなので拒否するはずもない。

 また、属州長官は直訴で減る分の功績は回復しておきたいはずである。つまり前哨基地2(1)個を攻略したことにしたいはずである。地球に前哨基地を放棄してもらう、功績のレポートラインを贈賄する方法などが考えられる。
 功績1ポイント=前哨基地1個=4 RUと考えて、帝国プレーヤーは直訴で功績ポイントを減らす代わりに、そのターンに使用できる予算(RU)を減らすのが良い案になる。

 これをオプションルールとしてまとめると、次のようになる。

  1. 帝国プレーヤーが直訴をする場合、功績ポイントではなく、そのターンに使用できる予算(RU)を減らす。減らす予算は、1回の直訴で減る功績ポイントが1ポイントなら4 RU、2ポイントなら8 RUである。
  2. 地球プレーヤーは、地球の前哨基地(末設置/設置済どちらでも可)マーカーを1個除去して功績ポイントを1ポイント増やせる。
  3. 地球プレーヤーと帝国プレーヤーは、自身の生産フェイズに前哨基地を作る代わりに4 RUを消費して功績ポイントを1ポイント増やすことができる。

 このオプションルールの重要なポイントは、功績ポイントを増減させる手段を帝国プレーヤーから地球プレーヤーに移したことにある。これにより、戦争(ゲーム)の長さと勝敗を地球プレーヤーがコントロール可能となる。この変更は、これまでの帝国同様、地球プレーヤーから戦争(ゲーム)に勝利するモチベーションを奪う可能性があるが、そもそも戦争(ゲーム)の勝敗が帝国視点なので、地球が勝利する必然性も無い。しかし、地球が帝国前哨基地を攻略した場合、功績を6ポイントにするには少なくとも8 RUの支出が必要になること、戦争勝者が先に植民できることを考えると、一方的に地球が負け続けるわけでも無いと考えられる。

第2版ルールに従うと、帝国プレーヤーは直訴で8 RUを消費するので、「直訴する/しない」に関しても、第1次恒星間戦争シナリオと同じように収支を考えることになる。また机下での外交を駆使して、功績を減らさないようにしている点でも、帝国(属州長官)が戦争の勝利を目指している形になっていると思う。更にルール上無かった設置済み前哨基地の撤去をルール化することで、地球プレーヤーは中盤戦以後の前哨基地不足を解消できる。
1功績ポイント、1回の直訴とそれぞれ等価なRU数に関しては、バランス調整が必要かもしれない。私は「直訴で4 RUの負担は軽い」と思っているが、帝国プレーヤーから「直訴で8 RUの負担は重い」とのコメントがあった (2022/07/30)。

References

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[2] G. Costikyan: Moves #51, pp. 29 (1980).
[3] P. Kosnett: The Grenadier #1, pp. 9 (No. 2) (1978).
[4] F. A. Chadwick: The Grenadier #1, pp. 15 (No. 2) (1978).
[5] D. Minch: Fire & Movement #13, pp. 28 (1978).
[6] D. Minch: The Dragon #18, pp. 7, III (No. 4) (1978).
[7] T. Watson: Space Gamer #15, pp. 28 (1978).
[8] C. Reynolds: White Dwarf #16, pp. 14 (1979).
[9] G. Costikyan, E. Goldberg, S. List, and D Ritchie: Ares Magazine #1, pp. 27 (1980).
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[11] T. Nakamura: Game Journal Jpn. Ed. No. 10, pp. 1 (1993), No. 11, pp. 9 (1993), No. 12, pp. 17 (1993), reprint: Game Journal Jpn. Ed. No. 1, pp. 50 (2001), No. 2, pp. 50 (2002), No. 3, pp. 46 (2002).
[12] T. Nishiyama: Privet website (since 2001). URL://www.geocities.jp/aokigaryou/.
[13] C. Kusakawa: Steller Strategy & Society, pp. 30 (Soc. SLG Unv. Ritsumei-kan, 1988).
[14] T. Nakamura: Game Journal Jpn. Ed. No. 4, pp. 69 (2002).
[15] Imperium rules booklet (Kokusai-tushin Co., Ltd.: 2001).
[16] Private game matches and post-game analysis with other clubs member since 1986.
[17] Imperium rules booklet (Kokusai-tushin Co., Ltd.: 2019).
[18] R. Camino: J. Traveller's Aid Soc. #1, pp. 9 (1979).
[19] R. Camino: J. Traveller's Aid Soc. #5 , pp. 16 (1980).
Translation by R. Ito: TACTICS Mgz. Jpn. No. 37, pp. 34 (1986).
[20] R. Camino: The Dragon #27, pp. 34, IV (No.1) (1979).
[21] M. Crane: The Dragon #39, pp. 44, V (No.1) (1980).
[22] R. Bartucci: Space Gamer #17, pp. 15 (1978).
[23] W. Mizia: Space Gamer #17, pp. 17 (1978).
[24] W. A. Peterson: Space Gamer #19, pp. 11 (1978).
[25] Imperium rules booklet (Conflict Game Co.: 1977).
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[27] Imperium rules booklet (GDW: 1990).
[28] Imperium rules booklet (HobbyJAPAN CO., Ltd.: 1982).
[29] Imperium rules booklet (HobbyJAPAN CO., Ltd.: 1985).
[30] Private discussion using e-mail since March 25, 2005.
[31] K. Ueda: Dash's clinic: Imperium "Evening of the Imperium" (2012).
[32] MPG-Net Imperium Help Files (1997). Wayback Machine.
[33] T. Takanashi: Command Jpn. Mgz. Ed. No. 163, pp.34 (2022).
[34] Dark Nebala rules booklet (GDW: 1980).

更新履歴
・シナリオ部分をページリンクに変更 (2022/07/30)。
・Reference [33], [34]の追加と関連内容を追加 (2023/06/25)。

1. Imperium
第4回 接続の両端
第6回 帝国の地勢学
Dash's Clinic: All right reserved by Kazuhiro Ueda, 2021.

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