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存亡の機を越えて

After the first crisis

 Dash’s clinic: Imperiumの第1回から第5回までに示した内容を基にしたImperiumの初期配置を「帝国の地勢学」で、そして「地球の初手」で第1ターンの手順の検討を示した[1-7]。その結果、本論文のImperiumでは帝国プレーヤーによるBarnard's star星系突破が難しく、SIRIUS星系方面から強襲するのが現実的と分かった[7]。そこで最初に、下記の配置2、3を用いたシリウス星系突破作戦を見直す。次に第1ターンの危機を脱した地球と好機を逃した帝国がとれる戦術・戦略を検討する。

シリウス星系突破作戦 ver.2

 ここでは「シリウス星系突破作戦」の検討結果を元に、帝国CRを第2ターンの補充で受け取ることも合せて検討する。帝国プレーヤーとしては地球がSIRIUS星系に反撃して、帝国CRが撃破され(第2ターンの補充として置く)、多くの地球艦隊をSIRIUS星系に拘束するのが目標である。地球プレーヤーが反撃可能な帝国CRを含む艦隊は(1SC, 1DD, 1CR)までである。(2DD, 1CR)以上は地球プレーヤーが反撃せず、「地球の初手」の「シリウス星系強襲」の手順となる。

配置2 前哨基地: Markhashi

 TAU CETI, EPSILON ERIDANI の各星系にワールドを、Markhashi星系に前哨基地を配置する、S. Listが勧める配置である[8]。シリウス圏の星系(Shuruppak星系またはMarkhashi星系)に(1SC, 1CR, 1AO)、NUSKU / Dushaam星系の恒星ヘクスに1SC、NUSKU惑星地表ボックス[WLM, OPM, 1JT, 3RT]、Apishal星系に(4DD, 2CL, 4TR)を初期配置とする。

配置3 前哨基地: Ishimshulgi

 AMARKU / LAGASH の各惑星地表ボックスにワールドを、Ishimshulgi星系に前哨基地を配置する。初期配置として、Shuruppak星系に(1DD, 1CR, 1AO)、NUSKU / Dushaam星系の恒星ヘクスに1SC、NUSKU惑星地表ボックス[WLM, OPM, 1M, 1JT, 3RT]、Apishal星系に(3DD, 2CL, 4TR)、Ishimshulgi星系に1SCを配置する。

 以下にターン進行を示すが、帝国プレーヤーが第1ターン中に功績ポイントを得る可能性はゼロである。配置1の「シリウス星系突破作戦」よりも、長いゲーム(戦争)またはキャンペーン(戦役)向けの配置である。

地球第1移動/戦闘フェイズ

 地球プレーヤーは、SIRIUS、Procyon、Agidda、Barnard's starの各星系に帝国のジャンプ移動を足止めする艦隊として1SCを配置する必要があるため、NUSKU / Dushaam星系に突入できる地球艦隊は最大(1SC, 2DD, 1CL, 1MB, 6TR)となり、帝国のリアクションに勝利できる可能性は10 %以下である。

 ここでは最小戦力でNUSKU / Dushaam星系の帝国1SCを排除する。

帝国リアクション移動/戦闘フェイズ

 帝国プレーヤーはNUSKU / Dushaam星系の地球艦隊を無視して、シリウス圏の艦隊をSIRIUS星系にジャンプ移動させる。0.04CRの損失で地球1SCを排除する。

地球第2移動/戦闘フェイズ

 地球プレーヤーがApishal星系を強襲すると、帝国艦隊がSIRIUS星系に進出しているため、帝国プレーヤーは帝国の第1移動/戦闘フェイズにProcyon星系をが攻撃可能となる。また地球の主力艦隊はApishal星系にいるため、地球の主力艦隊のリアクション移動はProcyon星系まで届かない。従って帝国のジャンプ移動を足止めする星系はNUSKU / Dushaam、Agidda、Procyon、Junction、Hades、Infernoとなり、各星系に1SCを配置する必要があるため、Apishal星系強襲艦隊は(2DD, 1CL, 1MB, 6TR)となる。帝国艦隊の宇宙戦闘は、地球の勝率が50 %を大きく下回るため、Apishal星系強襲は現実的でない。

 地球プレーヤーがSIRIUS星系に反撃する場合、帝国プレーヤーターンのジャンプ移動をNUSKU / Dushaam、AgiddaとProcyonの各星系で足止めするのに3SCを必要とする。従って、SIRIUS星系派遣艦隊は最大で(1SC, 2DD, 1CL, 1MB, 2TR)となる。SIRIUS星系での宇宙戦闘結果は次の通り。

 帝国プレーヤーは反撃されたとしても、CRは第2ターンに補充され、地球CL、MBを含む4~6個艦隊をSIRIUSで行動不能にできる。配置2、3は配置1の「シリウス星系強襲」作戦よりも、長い戦争(ゲーム)または戦役(キャンペーン)向けの配置なので、悪い結果ではない。

 地球プレーヤーがSIRIUS星系に進出した帝国艦隊に反撃した場合、地球の残戦力は2個艦隊以上となる可能性が高い。

地球がシリウス星系に反撃
帝国第1移動/戦闘フェイズ

 帝国艦隊はApishal星系で「辺境地での整備」をする。帝国艦隊に整備不良艦隊が発生しない確率は2CL: 44.4 %、3~4DD: 57.9~48.2 %である。Apishal星系で1個艦隊の整備不良が出ると期待される。

 帝国プレーヤーは帝国の第1移動/戦闘フェイズにSIRIUS星系に再び進出する。NUSKU / Dushaam星系の足止め艦隊はモニター艦を用いて排除する。

地球リアクション移動/戦闘フェイズ

 地球プレーヤーは帝国のジャンプ移動を足止めするため、 AgiddaとProcyonの各星系での足止めに1SCをジャンプ移動させる。帝国の第1ターンの進出限界がBarnard's starとProcyon星系となるため、ALPHA CENTAURI A / B星系の防衛が不要となる。前哨基地を積荷とする輸送艦と空荷の輸送艦3個艦隊(3TR(1OPM))と1DDをProcyon星系にジャンプ移動させ、続く戦闘フェイズに1DD, 3TR(1OPM)をProcyon星系の惑星地表ボックスに降下させ前哨基地を設置する。

帝国第2移動/戦闘フェイズ

 帝国プレーヤーは第2ターンの地球第1移動フェイズに対応する防御体制を構築する必要がある。Barnard's star星系は、帝国が恒星ヘクスを占領していても星系内に生産部隊が配置され、Agidda星系にジャンプ移動可能となる。またProcyon星系に前哨基地が設置されている場合、SIRIUS星系にもジャンプ移動可能となる。つまり、地球プレーヤーは第2ターンの地球第2移動フェイズにはNUSKU / Dushaam、EPSILON ERIDANI、Markhashiに到達する可能性がある。

地球がシリウスを放置
帝国第1移動/戦闘フェイズ

 帝国艦隊はApishal星系とSIRIUS星系で「辺境地での整備」をする。帝国艦隊に整備不良艦隊が発生しない確率は2CL: 44.4 %、3~4DD: 57.9~48.2 %である。SIRIUS星系で整備不良が出ない確率は22.2~27.8 %、2個艦隊とも整備不良となる確率は11.1~22.2 %。Apishal星系で巡洋艦1個艦隊、SIRIUS星系で1 個艦隊の整備不良が出ると期待される。

 帝国プレーヤーは帝国の第1移動/戦闘フェイズにProcyon星系に進出する。NUSKU / Dushaam星系の足止め艦隊はモニター艦を用いて排除する。

地球リアクション移動/戦闘フェイズ

 地球プレーヤーには3つの選択肢がある。

  1. Agidda、Junction、Hades、Infernoの各星系に1個艦隊合計4個艦隊をジャンプ移動さて、帝国のジャンプ移動を足止めする。
  2. Agidda星系に1SCをジャンプ移動し、主力艦隊(2SC, 2DD, 1CL, 1MB, 6TR)をもってProcyon星系に反撃する。
    • 防御: 帝国(1SC, 3DD, 1CL) vs 攻撃: 地球(2SC, 2DD, 1CL, 1MB, 6TR)
      地球勝利80 %、帝国勝利17 %、引き分け3 %
      地球勝利時の残存戦力は1.4SC, 0.71CL, 0.32MB, 3.9TR
  3. Junction、Hades、Infernoの各星系に1SCをジャンプ移動し、主力艦隊(2DD, 1CL, 1MB, 6TR)をもってNUSKU / Dushaam星系に反撃する。
    • 防御: 帝国(1CL, 1M) vs 攻撃: 地球(2DD, 1CL, 1MB, 5TR)
      地球勝利81 %、帝国勝利17 % 、引き分け2 %
      地球勝利時の残存戦力は1.4SC, 0.87CL, 0.17MB, 4.2TR

帝国第2移動/戦闘フェイズ

 帝国プレーヤーは艦隊をAgidda星系と/または、Junction、Hades、Infernoの3星系に進出させることができる。整備良好艦/整備不良艦を上手くジャンプ移動させて第2ターンの地球プレーヤーターン中にProcyon星系とNUSKU / Dushaam星系を越えてジャンプ移動されないようにするのが理想である。

第1ゲーム第2ターン以降(第1次恒星間戦争)

 第1ゲーム(第1次恒星間戦争)は、帝国プレーヤーが扉(Barnard's star星系)を破る、またはProcyon星系に地球圏内への足がかりとして前哨基地を設置することを目的として、地球プレーヤーはシリウス圏と地球圏のゲートとしてProcyon星系の要塞化を目標として進行する。

 Imperiumは大規模な「艦隊決戦」とその間の小規模な宇宙戦闘による「消耗戦」の組み合わせで進行する。「消耗戦」は敵の足止め艦隊の排除と敵艦隊の足止めのために、SC, DD, CLからなる小規模艦隊を最前線の星系に送り、小規模宇宙戦闘を繰り返すことである。戦闘への投入量と損害の収支から資源面から優位を得て、最終的に相手より大規模な艦隊を編成する手段の1つである。「艦隊決戦」はBarnard's starやProcyon等の戦略重要星系での大規模な艦隊戦に勝利して、拠点を奪う方法である。
 宇宙戦闘の勝率を計算して検討を進めているが勝率80 %でも3連勝できる可能性は51.2 %である。また確率1 %未満の引き分けが起こる場合も当然ある。宇宙戦闘は水物で、「『艦隊決戦』を回避して撤退する」、「『艦隊決戦』を諦めさせて撤退させる」のが最良である[9]。ただしプレーヤーにより諦めるしきい値が異なるため解析的に検討するのは難しい。本論文の検討では勝率80 %を攻撃のしきい値としている

地球資源と帝国資源の交換レート

 各論に進む前に、地球の偵察艦と帝国の偵察艦の価値について確認する。Imperiumをプレイすれば、帝国1SCが地球1SCを攻撃した場合、半分以上の確率で帝国が勝つこと、地球プレーヤーは帝国1SCを攻撃する場合、地球1SCでは不足して、地2SCで半々位の勝率、安全を見込むなら地球艦隊(1SC, 1DD)位を必要とすることを経験として理解していると思う。宇宙戦闘シミュレーションの結果は、地球艦隊(1SC, 1DD)が帝国1SCを攻撃する場合、地球の勝率は83 %である。他には、

となる。帝国(1SC)と地球(1SC, 1TR)は、どちらが攻撃であろうと、1勝1敗1分けでほぼ等価である。艦隊規模を拡大すると引き分けが減り、帝国/地球の勝率が増加する。地球(11SC, 11TR)と帝国(11SC)では3~4 %帝国有利に傾くが、近似的には等価と言える。つまり、建造に必要な資源量では帝国1 RUと地球2 RUが等価と言える。地球2 RUでは2SCも建造可能であり、この場合は地球の勝率67 %、帝国の勝率が29%となる。非武装輸送艦と武装偵察艦を同じ1 RUと評価するのは少々オーバーだが、非武装輸送艦を1 RU未満(例えば、0.5 RU)と評価すると艦隊の建造費とも合わなくなる。ここでは攻撃時の地球は(1SC, 1TR) = 2 RUを基本単位として扱い、+1SC、-1TRの幅で検討することにした。

艦隊決戦

 「艦隊決戦」は大規模な艦隊戦に勝利して戦術的勝利を戦略的勝利に拡大する方法である。最初、私は地球にはMBとMSがあるので、艦隊規模が拡大すれば地球プレーヤーが優位になると考えていた。しかし、艦隊を建造するのに必要な資源量(以後、艦隊規模(RU)と呼ぶ)が同じ艦隊同士の宇宙戦闘シミュレーションは、小型艦編成の地球艦隊(SC, DD, MB, F, TR, MS)と帝国艦隊(SC, DD, CL, F, MS)では、艦隊規模120 RUまで拡大しても地球の勝率が80%にならないことを示した。

 そこで小型戦闘艦 1種類の艦種からなる艦隊と小型艦編成の艦隊との宇宙戦闘を計算した。Fig. 8-1(a)は星系を防衛する地球の小型戦闘艦が1~11個艦隊まで変化した場合に帝国プレーヤーが80 %以上の勝率を得られる艦隊規模(RU)を示している。防衛する地球の艦種がSCの場合は青色塗りの円マーカーで、DDの場合はオレンジ色塗りの四角マーカーで、CLの場合は灰色塗りの菱形マーカーで示した。近似直線の傾きは、地球SCの場合は0.87、地球DDでは2.2、地球CLでは3.9である。傾きは地球SCが1個艦隊増えると地球の艦隊規模は1 RU増えるが、攻撃する帝国の艦隊規模は0.9 RUに留まっていることを示している。DDでは地球3 RUに対して帝国2.3 RU、CLでは地球6 RUに対して帝国3.9 RUである。この結果は帝国プレーヤーは地球の艦隊数が増え、艦種が大型化するほど地球艦隊より小さな艦隊規模の帝国艦隊で勝利できることを示している。

 横軸を防衛する地球艦隊の艦隊規模(RU)にした結果をFig. 8-1(b)に示す。艦種が大きくなると傾きが小さくなるが、3本の直線が近い領域にあることが分かる。これは地球SCに対する戦闘見積りで地球DD、地球CLに対する戦闘見積りを外挿した場合でも、帝国の勝率が80%を下回らない良い近似となることを示している。つまり地球SC~CLを相手とする宇宙戦闘の見積りが帝国プレーヤーにとって容易であることを示唆している。Fig. 8-1(b)に、地球11SCに加えて地球DDが1~11個艦隊まで増加した場合の結果(水色塗りの円マーカー)も合わせて示した。1SC~11SCの部分の近似式を(式8-1)、1DD~11DDの部分の近似式を(式8-2)、(11SC, 1DD)~(11SC, 11DD)の部分の近似式を(式8-3)として示した。yは攻撃側の艦隊規模(単位: RU)であり、xは防御側の艦隊規模(単位: RU)である。

y = 0.87*x + 1.1 . . . . . . (式8-1)
y = 0.75*x + 1.1 . . . . . . (式8-2)
y = 0.81*x + 2.1 . . . . . . (式8-3)

地球艦隊(11SC, 11DD)の艦隊規模44 RUに対して80%の勝率を得るのに必要な帝国の艦隊規模(RU)は、対地球SCの(式8-1)で外挿すると39 RUとなる。実際の宇宙戦闘の計算結果は38RUと近い結果が得られる。また、Fig. 8-1(b)は地球プレーヤーがSC~CLで防御する場合、地球艦隊の編成が帝国艦隊の編成に与える影響が小さいことも示唆している。


Fig. 8-1 The relationship between the amount of resource units (RU) required for the Imperial player to build a fleet with a win rate of 80% or more against the Terran fleet defending a star system.
(a): The horizontal axis is the number of units in the Terran fleet, and (b): the axis is the construction cost (RU) of the Terran fleet. The markers are the ship types of the defender's the Terran fleet. Circles indicate that the Terran SC's, squares indicate Terran DDs, and diamonds indicate that Terran CL's is defending.

 Fig. 8-2はFig. 8-1(b)の攻守を入れ替えた結果である。防衛する帝国の艦種がSCの場合は青色塗りの円マーカーで、DDの場合はオレンジ色塗りの四角マーカーで、CLの場合は灰色塗りの菱形マーカーで示した。 水色塗りの円マーカーは帝国11SCに加えて帝国DDが1~11個艦隊まで増加した場合の結果である。マーカーの枠線の色の違いは、地球が(11SC, 11TR)を使い切った後に、地球DDを使う(マーカーの枠線が黒色)場合と地球MBを使う(マーカーの枠線が赤色)場合である。枠線がオレンジ色のマーカーは投入する地球MBの数を決め不足分を地球(SC, TR)で補った場合の結果である。Fig. 8-2は帝国の艦種が大型化すると傾き(ランチェスターの法則の交換比と等価)が急激に小さくなっている。この結果は地球プレーヤーが帝国の大型艦に対しては建造費的に有利とする感覚と一致している。

 地球プレーヤーによる戦闘見積りが帝国プレーヤーより難しい理由として、多くのインペリストは「地球の艦種は長所・短所があり、コンバインド・フリート化して艦種毎の短所を互いに補う必要があるため」と述べている[11, 14]。Fig. 8-2の対帝国DDで見てみると、帝国6DDに対しては地球(10SC, 10TR)で対抗できるが、帝国7DDに対しては地球(1SC, 1DD)または地球1MBを追加する必要があり、帝国9DDからは地球DDを追加した方が地球MBを追加するよりも艦隊規模(RU)が大きくなる。一方で帝国(11SC, 1DD)~(11SC, 11DD)に対抗する場合、帝国(11SC, 6DD)までは地球MBではなく地球DDを用いた方が艦隊規模(RU)が小さい。しかし地球プレーヤーが地球DDを使い切り、母艦と戦闘機(3F, 1MS)で地球3DDの代わりにすると、母艦を保護する影響で勝率を80%にするのに必要な艦隊規模(RU)は増加する。この領域では地球(3F, 1MS)では無く、地球MBを用いた方が艦隊規模(RU)を少小さくできる。

 Fig. 8-2の帝国SCに対する戦闘見積りは、近似式(式8-4)が示すように帝国SCの艦隊数が増えると艦隊規模(RU)の増加量が減少する。これは帝国SCの艦隊数が増えると第1戦闘ラウンドの長距離ミサイル射撃を生き残る地球TRの艦隊数をある程度期待できるようになり、短距離になるまで地球SCを複数回守れるTRが増加することが原因である。

y = -0.052*x^2 + 3.0*x + 0.11 . . . . . . (式8-4)

 帝国CL に対する戦闘見積りでは、SCとDDで編成した地球艦隊よりも、CLと同数のMBを投入し、集中ミサイル射撃で破壊できなかった帝国CLをSCで攻撃する編成が最も効率的なことがわかる(オレンジ色の枠線、灰色塗りの菱形マーカー)。この近似式を(式8-5)に示す。CLの増加はMBで補われる為、傾きが(4/6) ≒ 0.67となっている。一方SCとDDで編成した地球艦隊は、傾きが0.67より大きくなっている(黒色の枠線、灰色塗りの菱形マーカー)。

y = 0.677*x + 1.0 . . . . . . (式8-5)

 地球の戦闘艦はFig. 8-2の近似曲線が艦種毎に大きく異なる上に、1次関数(直線)でないため、地球プレーヤーの戦闘見積りが難しいと考えられる。(SC, MB)を中心とした「スチームローラー」型の編成(オレンジ色の枠線、青色塗りの円形マーカー)は少しオーバーではあるが直線近似できるので、近似式を(式8-6)として示す。

y = 1.333*x + 12.333 . . . . . . (式8-6)

 では何故、多くインペリストが地球艦隊の「コンバインド・フリート」化を考えるのか、その利点について検討する。宇宙戦闘のモンテカルロ・シミュレーションは、DDを使うコンバインド化よりもTRを盾として使う方が有効であることを示している。またTRを盾として使うと数的優位が得やすく、戦闘組み作成でもイニシアチブがある攻撃時は、MBが有効に使えるため、MBを入れた編成が効率的となる。MBの大量投入の効果は「ミサイルボートスチームローラー」として中村が示している[17]。しかし中村はその中で、SCとMBで編成された艦隊が防御時は非常に脆弱であることを示し、「ミサイルボートスチームローラー」から「空母機動部隊戦略」、そして「コンバインド・フリート戦略」への進化を示している。

 そこでコンバインド化の利点は防御時にあるのか確認した。帝国艦隊(11SC, 11DD)に対する勝率が80%以上となる地球艦隊を帝国艦隊が攻撃し、勝率80%以上を得るのに必要な艦隊を計算した。その結果を以下に示す。

  1. 防御: 帝国(11SC, 11DD) vs 攻撃: 地球(11SC, 2DD, 11MB, 10TR)
    地球勝利82 %、帝国勝利17 %、引き分け1 %
    • 防御: 地球(11SC, 2DD, 11MB, 10TR) vs攻撃: 帝国(11SC, 11DD)
      地球勝利30 %、帝国勝利67 %、引き分け2 %
    • 防御: 地球(11SC, 2DD, 11MB, 10TR) vs攻撃: 帝国(11SC, 11DD, 7TR)
      地球勝利17 %、帝国勝利82 %、引き分け1 %
  2. 防御: 帝国(11SC, 11DD) vs 攻撃: 地球(11SC, 9DD, 6F, 11TR, 2MS)
    地球勝利82 %、帝国勝利17 %、引き分け1 %
    • 防御: 地球(11SC, 9DD, 6F, 11TR, 2MS) vs攻撃: 帝国(11SC, 11DD)
      地球勝利28 %、帝国勝利70 %、引き分け1 %
    • 防御: 地球(11SC, 9DD, 6F, 11TR, 2MS) vs攻撃: 帝国(11SC, 11DD, 1CL, 3F, 1MS)
      地球勝利19 %、帝国勝利80 %、引き分け1 %
  3. 防御: 帝国(11SC, 11DD) vs 攻撃: 地球(11SC, 11DD, 3MB, 10TR)
    地球勝利81 %、帝国勝利18 %、引き分け1 %
    • 防御: 地球(11SC, 11DD, 3MB, 10TR) vs攻撃: 帝国(11SC, 11DD)
      地球勝利33 %、帝国勝利66 %、引き分け2 %
    • 防御: 地球(11SC, 11DD, 3MB, 10TR) vs攻撃: 帝国(11SC, 11DD, 3F, 1MS)
      地球勝利15 %、帝国勝利84 %、引き分け1 %

 1.は(SC, MB)を中心とした「スチームローラー」型の編成であり、2.はMS(3F)、DDを用いた「コンバインド・フリート」型、3.はDDの不足をMS(3F)では無くMBで補った艦隊である。帝国(11SC, 11DD)から反撃を受けた場合は「コンバインド・フリート」型が5 %ほど勝率が低いことが分かる。一方で帝国が80%の勝率を得るには「コンバインド・フリート」型に対して、最も多い艦隊規模16RUを追加する必要があった。この結果は帝国プレーヤーが地球艦隊を攻撃する際、「コンバインド・フリート」型編成の地球艦隊の方が、艦隊規模(RU)の大きな帝国艦隊を準備する必要あると感じさせることができる、防御力の高い艦隊と考えられる。


Fig. 8-2 The relationship between the amount of resource units (RU) required for the Terran player to build a fleet with a win rate of 80% or more against the Imperial fleet defending a star system.
The horizontal axis is the construction cost (RU) in the Imperial fleet. The markers are the ship types of the defender's the Imperial fleet. Circles indicate that the Imperial SC's, squares indicate Imperial DDs, and diamonds indicate that Imperial CL's is defending.

 次に小型艦で編成された帝国艦隊の排除に必要な地球艦隊の詳細を示す。

 帝国の偵察艦隊はコスト・パフォーマンスが優れた艦艇であることが分かる。地球は艦隊規模27RU、帝国艦隊の2.5倍の艦隊規模(RU)の艦隊が必要である。地球プレーヤーが帝国SCで破壊不可能な地球CR(重巡洋艦)を生産する傾向があるのは、帝国SCの高いコスト・パフォーマンスの影響といえる。

 地球の11DDで排除可能な帝国DDは6個艦隊である。尚、地球(11SC, 11TR) で排除可能な帝国DDも6個艦隊である。

 初期の帝国が1ターンで得られる資源量(以後、収入と呼ぶ)で建造可能な艦隊に対抗するには艦隊規模40 RUの地球艦隊が必要である。つまり帝国プレーヤーは経済的増強をしなくても、地球プレーヤーが収入を40 RUまで増加させなければ、地球プレーヤーにハイリスク・ローリターンな戦闘を強いることが示されている。一方で帝国プレーヤーは艦隊数の上限から毎ターン(11SC, 4DD)を建造できる訳ではない。帝国プレーヤーが2ターンで(11SC, 11DD)を建造すると考え、各地球プレーヤーも2ターンで(11SC, 11DD, 6F, 11TR, 2MS)を建造すると制限を入れると、地球プレーヤーが必要とする艦隊規模(RU)は38 RUに減少する。帝国プレーヤーは更に補充で1CLを得ると考えられるので、1CLに対抗する1MB の建造が必要となるため、1ターンに必要な収入は42 RUとなる。ただしMSが撃破されなければ、必要な収入は7 RU減り35 RUとなる。

 ここまで地球の艦隊規模(RU)は帝国の艦隊規模(RU)の1.7倍以上あったが、帝国DD艦隊を地球(SC, TR)が中心の艦隊で攻撃すると、艦隊規模(RU)の比率は1.2倍に低下した。帝国(SC, DD)の艦隊では1.5倍に増加することから、帝国SCの支援が高い効率を得る上で重要なことが分かる。

 地球プレーヤーは帝国CLには1MB、帝国CS~CAには2MB、帝国B1~BBには3MBを当てることで帝国艦艇の生存率を15%以下にできる。数的優位がある地球プレーヤーは、帝国の巡洋艦、主力艦に対してMBを効果的に使えるため、高い勝率と高いコスト・パフォーマンスが得られる。逆説的に帝国プレーヤーが高いコスト・パフォーマンスを得られる艦隊は(11SC, 11DD)までと考えられる。艦隊規模は44 RUなので、帝国圏とシリウス圏で得られる収入の1.26倍である。帝国(11SC, 11DD)艦隊に対抗できる地球艦隊は母艦(MS)を含めて艦隊規模69 RUの艦隊である。地球プレーヤーの艦隊規模(RU)と収入の比率が、帝国プレーヤーの艦隊規模(RU)と収入の比率と同じとすると、地球プレーヤーは54 RUの収入が必要となる。地球プレーヤーがAgidda星系を含む地球圏内で確保できる収入は50 RUなので、実現にはシリウス圏のワールド、またはNUSKUのワールドを確保する必要がある。

恒星間塹壕戦

 「恒星へクスに積まれた戦闘機や惑星地表ボックスに引き籠っているモニター艦で前哨基地とその星系を防衛している」状態を「要塞化」と呼んでいるが、英語ではInterstellar trench warfare(恒星間塹壕戦)と呼ばれている[8]。初期のゲーム(戦争)中にNUSKU / Dushaam、Agidda、Barnard's starやProcyonの防衛でよく見られる形である。

 帝国プレーヤーが地球モニター艦1個艦隊を帝国CLの集中ミサイル射撃で排除する場合、5CLでの勝率は 86.8%、4CLでは80.2 %、3CLでは70.3 %である。帝国CSの集中ミサイル射撃の場合、3CSでの勝率は 87.5%、2CSでは75.0%である。したがって帝国プレーヤーが1Mの排除に必要な艦隊規模(RU)は(1SC, 4CL)で25 RU(正確には、勝率70%以上なら19 RU、75% 以上なら21 RU、80% 以上なら25RU、85% 以上なら31 RUで) となる。地球プレーヤーがモニター艦撃破後の帝国艦隊に反撃するには、艦隊規模16~24 RUを投入する必要がある。地球プレーヤーは反撃に必要な艦隊規模(RU)が大きくなるため、モニター艦を惑星地表ボックスに置き、反撃時に出撃してくる場合が多くなる。

 次に帝国プレーヤーが地球の戦闘機スタックの排除に必要なコストを検討した。地球戦闘機の艦隊数と勝率80 %以上となるのに必要な攻撃側(帝国)の艦隊規模(RU)の関係をFig. 8-1に黄色塗りの三角形マーカーで示した。Fig. 8-1から帝国プレーヤーが地球11Fの排除に必要な艦隊規模は26 RUであることが分かる。またFig. 8-1(a)上で地球Fと地球DDの分布が一致していることから、帝国プレーヤーにとって地球F≒地球DDであることも分かる。

 帝国プレーヤーが帝国艦隊(11SC, 11DD)から艦隊(11SC, 5DD)を分派し、地球の戦闘機スタック(11F)を排除した場合、地球プレーヤーが星系を再確保するには、帝国の残存艦隊(4.6SC, 2.0DD)と予備艦隊(6DD)を排除する必要がある。地球プレーヤーは少なくとも艦隊規模40 RUが必要である。これは初期の地球プレーヤーとって、主力艦隊による全力攻撃に相当する。つまり地球艦隊が消耗した直後は、帝国プレーヤーにとって地球の要塞化星系を突破し易い状況と言える。

 地球プレーヤーがモニター艦を恒星ヘクスに残している盤面は少ないが、地球艦隊(11F, 1M)の排除についても検討した。地球(11F)の排除に必要な帝国(11SC, 5DD)に、地球Mを集中ミサイル射撃で撃破するCL, CSを追加した艦隊で検証した。帝国巡洋艦の集中ミサイル射撃 が外れて地球Mが生存すると、帝国SC、DDでは地球Mを撃破できないため、作戦は失敗となる。また地球Mを撃破できても地球Fの殲滅に失敗しても作戦は失敗となる 。計算結果を、以下に示す。

 期待する勝率によって変わるが、帝国の勝率が80 %以上とする場合、地球1Mに対して規模30 RUの艦隊を追加する必要があることが分かる。また5CLの方が3CSよりも有効であることが示されている。これは巡洋艦の艦隊数が多い方が戦闘機の排除に有利なためである。

 次に地球プレーヤーについて検討する。地球艦隊が帝国モニター艦1個艦隊の排除に必要な艦隊規模(RU)は、第1版[10-14] 時の12 RUから第2版[15-17]では8 RUに減少した。第1版の場合、地球プレーヤーはMBの集中ミサイル射撃を用いて帝国Mを撃破するのが普通であった。地球2MBが集中ミサイル射撃した場合の勝率は75.0 %、3MBが集中ミサイル射撃した場合の勝率は87.5 %なので、地球プレーヤーが帝国1Mを撃破するのに必要な艦隊は艦隊規模12 RUとなる。第2版では近接攻撃に対して短距離ミサイル射撃による防御射撃ができないため、地球(4SC, 4TR)艦隊で地球の勝率が80%に、(5SC, 3TR)艦隊で83%、8SCで86 %になる。地球SCとMBの混成艦隊では、規模9 RU の(5SC, 1MB)艦隊で83 %、規模10 RUの (2SC, 2MB)艦隊で84 %である。

 次に地球プレーヤーが帝国戦闘機のスタックを排除するのに必要な艦隊規模(RU)を検討した。帝国戦闘機の艦隊数と勝率80 %以上となるのに必要な攻撃側(地球)の艦隊規模(RU)をFig. 8-2に黄色塗りの三角形マーカーで示した。地球プレーヤーはFig. 8-2から帝国12Fの排除に規模41~49 RUの艦隊が必要であることが分かる。

 地球プレーヤーは艦隊(11SC, 11TR)で帝国7F以下に対抗できる。しかし、帝国8F以上になると(SC, TR)の不足分としてDDまたはMBの投入が必要になる。帝国Fが1個艦隊増える毎に地球プレーヤーは2DDまたは1MBを追加することになり、艦隊規模(RU)が増大する。1 RUの戦闘機に対して4 RUのMBを当てるのは躊躇われるが、計算上は帝国5Fに対して地球9DDを必要としており、1 RUの戦闘機に対して平均で5.4RUのDDを当てることになる。

 帝国プレーヤーは、建造中を含む盤面上の地球SCと同数、地球DDの半数のFで星系を防衛すれば、地球プレーヤーに大きな出血を強いることができる。また8F以上で防衛すると地球プレーヤーの突破を防ぐ効果が期待できる。

 地球プレーヤーが帝国12Fの排除に規模41 RUの(11SC, 5MB, 10TR)艦隊を用いた場合、地球の残戦力は(5.2SC, 2.0MB, 4.0TR)と期待される。この地球艦隊では帝国プレーヤーの反撃に耐えることは難しい。初期の地球プレーヤーは艦隊規模60 RUを編成するに2ターンを必要とする。帝国プレーヤーは2ターン分の収入46 RUを用いて12Fの建造以外に艦隊規模34 RUを編成できる。地球プレーヤーは艦隊規模34 RUの帝国艦隊を撃破するには少なくとも艦隊規模54 RUが必要である。地球プレーヤーが要塞(塹壕)化された星系を攻略するには、残存艦隊を攻撃に使えたとしても、艦隊規模80 RU以上が必要ということになる。つまり少なくとも第1次恒星間戦争中に要塞化された星系を地球プレーヤーが突破・攻略することは困難と考えるべきである。

  地球プレーヤーは塹壕線を突破する(Fスタック除去)艦隊と帝国艦隊を撃破するための2個艦隊を編成できるようになる必要がある。その際、Fスタック除去のために艦隊規模41 RUを消耗することは、地球プレーヤーにとって非常に辛い。実はもっと安価な方法がある。スクリーン力8以上の主力艦を1個艦隊送り込めば戦闘機は自動的に全減する。スクリーン力8以上の地球主力艦はモニター艦(M)と戦艦(BB)である。帝国が(12F, 1M)で防衛していたとしても、艦隊規模43RUの地球BBを含む艦隊は勝率89 %である。小型艦で編成した地球艦隊で勝率80 %以上なのは艦隊規模54~58 RUなので、艦隊規模(RU)・勝率ともにBBを使う方が有利である。

 地球BBがn個艦隊からなる帝国Fのスタックを蹂躙し、続く帝国戦闘フェイズに帝国が3CSの集中射撃で地球BBを1CSと引替に撃破したとする。残った2CSを地球4MBが集中射撃で撃破する(2MBは引替に撃破)。損失した艦隊規模(RU)は地球28 RU、帝国(30+n) RUとなる。最後に残った地球2MBと帝国2SCと共倒れとすると、損失艦隊規模(RU)は地球36 RU 、帝国(32+n) RUとなる。生産時間の影響を除けばn = 4で収支が合うことを示している。帝国の地球BB撃破確率を75%以上に下げると、2CSの集中射撃で地球BBを撃破(1CSは撃破される)、残った1CSを地球2MBが集中射撃で撃破(1MBは撃破される)となり、残った地球1MBと帝国1SCと共倒れとすると収支は地球28 RU、帝国(21 + n) RUとなる。つまり撃破率75%でも地球BBは7F以上のスタックを蹂躙できれば収支が合うことになる。

Imperiumにおける主力艦は整備費用が高いので、第1次世界大戦に投入された戦車だと考えて使い潰すのが賢明である[18]。塹壕線を突破するためにソンムやカンブレーの戦いに投入された戦車の大半は、戦場で故障し破壊/破棄された。

消耗戦

 「消耗戦」は敵ジャンプ艦隊の足止めを目的としたSC, DD, CLからなる小規模艦隊を最前線の星系に送り小規模宇宙戦闘を繰り返し、戦闘への投入量と損害の収支から資源面での優位を得る戦闘形態である。最初にSIRIUS星系に帝国1SC がいる盤面で「消耗戦」モデルを考える。

  1. 地球プレーヤーは帝国1SC を排除するのに地球(1SC, 1DD)を使う場合が多い。宇宙戦闘は地球の勝率83 %で地球の残存艦隊は、23 %: 1SC、22 %: 1DD、55 %: (1SC, 1DD)となる。実際は艦隊規模が1 RU少ない地球(2SC, 1TR)でも充分である。宇宙戦闘は地球の勝率81 %で地球の残存艦隊は、10 %: 1SC、45 %: 2SC、45 %: (1SC, 1TR)となる。
  2. 帝国プレーヤーは、帝国2SCを地球1SCまたは地球(1SC, 1TR)に対して、帝国3SCを地球2SCまたは地球1DDに対して、帝国4SCを地球(1SC, 1DD)に対して投入する。宇宙戦闘の結果は、順に帝国勝利: 92 %、88 %、90 %、87 %、92 %で、残存する帝国艦隊の期待値は、順に1.8SC、1.7SC、2.4SC、2.5SC、3.0SCとなる。
  3. 地球プレーヤーが帝国1SCを排除する場合は 1. に戻る。帝国2SCを排除するには(3SC, 3TR)を、帝国3SCを排除するには(5SC, 4TR)を投入する。地球の勝率は80 %と87 %である。帝国2SCを排除して残存する地球艦隊の期待値は(1.9SC, 1.6TR)であり、帝国3SCを排除して残存する地球艦隊の期待値は (3.0SC, 1.9TR)である。
  4. 帝国プレーヤーは、地球1SCまたは地球(1SC, 1TR) に対して2SCを、地球(2SC, 1TR) に対して3SCを、地球(2SC, 2TR)または地球(3SC, 1TR)、地球(3SC, 2TR)に対して4SCを投入する。戦闘結果は、順に帝国勝利: 92 %、88 %、88 %、96%、88 %、85 %で、残存する帝国艦隊の期待値は、順に1.8SC、1.7SC、2.3SC、3.1SC、2.8SC、2.6SCとなる。

4.の内容は、2.で帝国プレーヤーが投入した帝国艦隊の範囲内であり、戦闘後に残存する帝国艦隊も2.の戦闘結果の範囲内である。つまり、SIRIUS星系での小規模宇宙戦闘は、2.と3.の間でループすることになる。

 帝国プレーヤーまたは地球プレーヤーが1SCを配置し、それを排除するために帝国が2 SCを、地球が(2SC, 1TR)を投入することで、「消耗戦」はスタートする。地球プレーヤーは投入される地球の艦隊規模(RU)と帝国の艦隊規模(RU)の差が小さいループ(ここでは投入艦隊規模(RU)を元に1:2のループと呼ぶ)を維持しようとする。しかし宇宙戦闘の結果で残戦力が大きくなると3:6のループを経由して4:8のループに拡大する。4:8のループは、1周毎に地球の支出が帝国より4RU以上多くなる。帝国プレーヤーは4:8のループを長く維持しようとするが、SC、TRの艦隊数上限から1ターン程度で破綻する。1DDでスタートした場合は、地球が(2SC, 3TR)、帝国が3SCを投入することでスタートし、3:6 - 4:8のループに遷移する。

 Table 8-1に1SC ~ 5SCの防御側艦隊を相手に、勝率80 %以上が得られる小規模艦隊の編成例である。帝国プレーヤーは3~4SCを小規模艦隊として数ヶ所の星系に投入できるが、地球プレーヤーが(5SC, 3TR)を小規模艦隊として数ヶ所の星系に投入するとは難しい。その場合、地球プレーヤーは地球DDをSCの代りに投入することになり、投入艦隊のコストが上昇することになる。

Table 8-1 The order of the Scouts squadrons that can attack a small fleet with a win rate of 80% or more.

Defense
fleets
Attack
Imperial
Imperial
win(%)
Attack
Terran
Terran
win(%)
1SC2SC932SC-1TR81
2SC3SC923SC-3TR80
3SC4SC905SC-3TR81
4SC5SC916SC-5TR82
5SC5SC808SC-5TR83

 Fig. 8-3は防御艦隊を最大で艦隊規模14 RUの小規模艦隊(2SC, 2DD, 1CL) とし、攻撃側が防御側艦隊に対して勝率80 %以上を得るのに必要な艦隊規模(RU)の最小値を示した。帝国が攻撃の場合を赤色塗りの円マーカーで、地球が攻撃の場合を青色塗りの四角マーカーで示した。攻撃時の帝国は(5SC, 3DD, 1CL)から最大で艦隊規模17 RUの艦隊を編成し、攻撃時の地球は(5SC, 2DD, 1CL, 1MB, 5TR)の中から最大で艦隊規模22 RUの艦隊を編成した。

 Table 8-1の結果を近似式にすると、地球艦隊は(式8-7)、帝国艦隊は(式8-8)となる。またFig. 8-3全体の地球艦隊の近似式は(式8-9)、帝国の近似式は(式8-10)である。Fig. 8-3中にTable 8-1の結果と(式8-7)を合せて示した。

y = 2.5*x + 0.7 . . . . . . (式8-7)
y = x + 1.0   . . . . . . (式8-8)
y = 0.80*x + 4.15 . . . . . . (式8-9)
y = 0.77*x + 1.07 . . . . . . (式8-10)

 (式8-8)と(式8-10)は切辺がほぼ同値で、(式8-10)の傾きが(式8-8)より小さくなっている。これは防御艦隊に地球DD、地球CLが含まれることで艦隊規模(RU)が増加したのに対して、帝国は高性能な小型艦で対抗できるため、艦隊規模(RU)があまり増加しないことを示している。

 (式8-7)は傾きが2.5と大きいが、(式8-9)では0.80と(式8-10)と差が無くなっている。これは小規模艦隊の宇宙戦闘での帝国艦隊の攻撃力が1CL < 2DD < 6SCのため、防御艦隊に帝国DD、帝国CLが含まれると、防御時の攻撃力が防御艦隊の規模に対して相対的に小さくなるためである。帝国SCが防御艦隊のときの攻撃艦隊規模が大きくなるように切辺が大きくなっている。計算結果と近似式(式8-10)の残差の標準偏差は0.71だが、モンテカルロ・シミュレーションの結果より近似式の計算値が低いと勝率が80 %を下回ることになる。残差がプラス側だけを見ると最大で+1 RUである。つまり(式8-10) +1 RUで帝国プレーヤーはFig. 8-3の範囲で勝率80%の 艦隊規模(RU)を概算できる。同様にシミュレーション結果と(式8-9)の残差の標準偏差は1.52だが、残差のプラス側は最大で+2 RUなので、(式8-9) +2 RUで地球プレーヤーは防御艦隊(2SC, 2DD, 1CL)の範囲に対して勝率80%の艦隊規模(RU)を概算できる。

 (式8-9)と(式8-10)は、小型艦の小規模艦隊の戦闘は攻防1周すると地球の方が帝国より3 RU程度の多くの艦隊規模(RU)を必要とすることを示唆している。先のSIRIUS星系のモデルループより収支が小さいのは、DD、CLが混ざった影響と考えられる。


Fig. 8-3 The minimum amount of resources (RU) required to build a fleet that will give the attacker an 80 % win rate or better over the defender's fleet.
The defending fleet has a maximum of (2SC, 2DD, 1CL) ~ 14 RU. The square marker indicates that the Imperial is attacking, and the fleet has a maximum of fleet (5SC, 3DD, 1CL) ~ 17 RU. The circled marker is for the Terran attack, with a maximum of fleet (5SC, 2DD, 1CL, 1MB, 5TR) ~ 22 RU.

 地球の防御艦隊が1~4SCの場合、Table 8-1から帝国プレーヤーは地球のSCの艦隊数+1個艦隊を投入する必要があること、Fig. 8-3から地球の防御艦隊より帝国の攻撃艦隊の艦隊規模(RU)が大きいのは地球の防御艦隊が1~4SCの場合のみであることが分かる。地球プレーヤーが帝国艦隊のジャンプ移動を足止めする艦隊は1~4SCが望ましく、次に1DD、(1SC, 1DD)、(2SC, 1DD)、(2SC, 2DD)であることが分かる。

 帝国が防御する場合、Table 8-1 、Fig. 8-3から1~4SCで防御すると非常に効率が良いことが分かる。また帝国DDに関しては、Fig. 8-2のDD(オレンジ色塗りの四角マーカー)の近似式の微分が1.0となるのはx = 12.0 (黒色の枠線、オレンジ色塗りの四角マーカー)とx = 18.9 (赤色の枠線、オレンジ色塗りの四角マーカー)なので、帝国DDは5~7個艦隊以上まとめて投入すると、地球の反撃艦隊の艦隊規模(RU)の増加が帝国DD艦隊の艦隊規模(RU)の増加を超えるため、効率良く防御できることが分かる。

 地球プレーヤーが「消耗戦」を避けて反撃せずに退却した場合、帝国プレーヤーには1ゲームターン中に3回の攻撃機会がある。その中でBarnard's star方面とProcyon方面で地球1SCと5戦し、2.2 RUの損害を与えることが期待できる。地球プレーヤーが反撃し、帝国が再反撃すると、(式8-9)、(式8-10)より1ヶ所につき3 RU程度、地球プレーヤーに余分に損害を与えること期待される。
 地球プレーヤーが「消耗戦」を避けるには、帝国プレーヤーが反撃を諦める艦隊規模(RU)を戦場となる星系に送るか、戦場となる星系にモニター艦と戦闘機を配置して要塞(塹壕)化する必要がある。帝国SC、DDでは地球モニター艦を撃破できないため、地球のモニター艦を除く小型艦の艦隊規模(RU)を3~6 RU程度引き下げることができる。従って「消耗戦」ループの収支がゼロ付近になる。

 帝国プレーヤーは「消耗戦」を繰り返すことで、地球と帝国の収入差をある程度、軽減できる。帝国プレーヤーは(式8-1)~(式8-3)に基づいて「消耗戦」を続け、「艦隊決戦」で必要とする帝国の艦隊規模(RU)が地球の艦隊規模(RU)の80 %であることに注意して艦隊を編成し、数的不利でも果敢に「艦隊決戦」を仕掛ける必要がある。

帝国の補充

 「消耗戦」の場合、帝国プレーヤーは補充を考慮することも重要になる。補充は損失艦1個艦隊を次~次々ターンに無料で受け取れる(つまり帝国の損失はゼロ扱い)ので、その戦闘艦が地球に与えた損害が、そのまま消耗戦の収支に加算される。建造許可なしの場合、SCは防御時に艦隊規模1.1 RUの、DDは1.6 RU、CLは2.0 RU、CSは2.5 RU、CRは3.7 RUの損害を地球プレーヤーに与えることが期待できる。補充で回収する戦闘艦は無料なので、SC、DDよりも巡洋艦以上が良い。第1次恒星間戦争開始時、帝国プレーヤーは2CLと1CRを持っているため、これを補充用艦隊として毎ターン1個艦隊は損失するように運用しないと、折角ある補充ルールを有効に活用できてないことになる。一方で小型艦が一時的に補充トラックにプールされるため、使用可能なSCやDDの艦隊数が11個より少ないことにも注意する必要がある。

 主力艦は、事前に戦力増強直訴で9以上を振る必要があり、生産に2タ―ン必要なので、補充艦として最適である。主力艦を毎ターン1個艦隊受け取るには、主力艦が最低3個艦隊必要であり、平均で毎ターン1個艦隊失われる必要がある(2個艦隊損失した次のターンは損害無でも良い)。主力艦は補充で毎ターン回収するため、建造許可を得たなら最低限3個艦隊を揃えるのが目標である。地球プレーヤーは毎ターン撃破しても、毎ターン1個艦隊が生産される、つまり主力艦が量産されているようなプレッシャーを感じることになる。

 地球プレーヤーは、補充される帝国艦隊がCLなら1MB、巡洋艦なら2MB、主力艦なら3MBが撃破に必要と考え、4、8、12RUの予算をMB生産に費やす必要があると考えると、補充の影響が分かり易い。

 帝国プレーヤーは第1ゲーム(第1次恒星間戦争)の第1ターン、帝国のリアクション移動フェイズに「シリウス星系威力偵察」艦隊として(1SC, 1CR)をSIRIUSに送り、地球の第2戦闘フェイズに撃破してもらい、第2ターンの補充で受けとる方法を考えるかもしれない。地球の残存艦隊は(1.9SC, 0.65CL, 0.16MB)となるため、地球に6.56 RUの損害を与えることが期待できる。この移動例は「シリウス突破作戦 Ver. 2」の中で示した。配置1で示した「シリウス突破作戦 」[7]よりも、強襲と威力偵察の中間位の戦力のため、地球プレーヤーの出方を聞く形となる。

 第1次恒星間戦争開戦時、帝国プレーヤーは規模38 RUのジャンプ戦闘艦隊を、地球プレーヤーは規模28 RUのジャンプ艦隊を持っている。両プレーヤーが大規模な宇宙戦闘を回避した場合、1ターン終了時の地球プレーヤーは艦隊(2SC, 2DD, 1CL, 1MB, 6TR)位を、帝国プレーヤーは艦隊(4DD, 2CL, 1CR, 4TR)位を持つ。帝国プレーヤーが(1DD, 1CR)をSIRIUSに送り地球プレーヤーが反撃した場合、地球プレーヤーの艦隊は(2DD, 6TR)位、帝国プレーヤーの艦隊は(3DD, 2CL, 4TR)位になる。第1ターンの地球プレーヤーの生産が(3SC, 1MB, 1M , 3F, 3TR ,1AO, 1JT)とすると、大規模な宇宙戦闘は地球プレーヤーの勝率は80 %以上となる。帝国プレーヤーは少ない戦闘艦を使って第2ターンの地球プレーヤーターンを乗り切る必要があるため、補充艦隊を作るために損失する余裕は無いとも言える。

第1ゲームの終了(第1次恒星間戦争)

 第1ゲーム(第1次恒星間戦争)は、帝国プレーヤーが扉(Barnard's star)星系を破ること、地球圏内への足がかりとして、Procyonに前哨基地を設置することを目的として、地球プレーヤーはシリウス圏と地球圏のゲートとしてProcyon星系の要塞(塹壕)化を目的として進行する。 多くの場合、「第1ゲーム(第1次恒星間戦争)」は、1ポイントの功績を争うゲームとなり、7~8ターンで終了し勝敗が決まる。
 地球プレーヤーはゲーム中の「消耗戦」ループからぬけ出す際に大きな損害を受けないように注意する必要がある。また帝国プレーヤーは「艦隊決戦」に敗れても、その広さと地球艦隊の未成熟さから回復できる。ゲームの長さが7~8ターンなので、両プレーヤー共に2回程やり直しが利く。

 キャンペーン中の帝国プレーヤーにとって、「第1ゲーム(第1次恒星間戦争)」の目的は「地球ワールドを征服する」ことで、「Barnard's star星系またはProcyon星系に帝国の前哨基地を設置する」ことが目標である。従って「Procyon星系に地球前哨基地を設置させない」ことは目標達成のマイル・ストーンである。帝国プレーヤーの理想的な展開は、SIRIUS星系とProcyon星系で「消耗戦」を展開し、地球の艦隊集積とProcyon星系への前哨基地設置、モニター艦の配備を妨害して、最終ターンにProcyonの惑星地表ボックスに帝国前哨基地を設置して目標を達成することである。

 キャンペーン中の地球プレーヤーが考える「第1ゲーム(第1次恒星間戦争)」の目標は「Barnard's star星系に地球前哨基地がある」と「Procyon星系に帝国前哨基地が設置させない」ことである。これが達成できれば最低限の目標達成である。「第2ゲーム(第2次恒星間戦争)」のために資源備蓄を進めることがもう一つの目標である。帝国プレーヤーは平時植民でProcyonに前哨基地を設置できないので、戦争中に帝国前哨基地をProcyonに設置させなければ、地球プレーヤーは平時植民で前哨基地をProcyonに設置できる。このため殆どの場合、「第2ゲーム(第2次恒星間戦争)」開始時には「Procyon星系に地球前哨基地がある」はずである。

 ここまでがImperiumの序章(プロローグ)、この後がImperiumキャンペーンの本当の始まりと言って良い。

次のゲーム(戦争)に向けて

 帝国プレーヤーの平時歳入は、第1ゲーム(第1次恒星間戦争)の最終ターンの収入(23+α) RUと平和時の収入の(23+α) RUの合計 46 RU+2αとなる(αは第1ゲーム中に設置した帝国前哨基地の数)。その大半は規模56 RU艦隊(11SC, 11DD, 12F)の編成に費やされる。CRの退役対策とモニター艦の建造、前哨基地の生産に残り資源を費やすことを考えると、資源は意外と少ない。

 帝国艦隊が最大効率なのは、帝国(11SC, 11DD)の44 RUの艦隊である。地球プレーヤーが、この帝国艦隊に80 %以上の勝率を得るには規模66~69 RUの艦隊が必要である(加えて1CL毎に4 RU、1CS, 1CR毎に8 RUを追加)。つまり地球プレーヤーは平時生産の資源として80~90 RUを必要としている。地球プレーヤーの平時歳入は1ターンの収入の半分15 RU位なので、65 RU以上不足している。第1ゲーム(第1次恒星間戦争)中、地球プレーヤーの戦時収入は30 RU位なので、単純に考えて戦争中に最低限2ターン分の資源を備蓄しておく必要がある。第2ゲーム(第2次恒星間戦争)第1~2ターンの防衛に関してはDDの代りにFが使えるため負担を少し軽減できる。母艦が退役しなかった場合は6DDを6Fに置き換えて12 RU、輸送母艦戦術[3]を用いると、11DDを11Fに置き換えられるので22 RU節約できる。


宇宙戦闘の勝率は試行回数N = 10000のモンテカルロ・シミュレーション[2]の結果である(Ver. 3.1.5)。

References

[1] K. Ueda: Dash's clinic: Imperium "FAQ of Imperium" (2005).
[2] K. Ueda: Dash's clinic: Imperium "Estimate space combat results" (2021).
[3] K. Ueda: Dash's clinic: Imperium "Fighter Transporter" (2021).
[4] K. Ueda: Dash's clinic: Imperium "Both ends along jump routes for connection" (2021).
[5] K. Ueda: Dash's clinic: Imperium "Milestone and goal" (2021).
[6] K. Ueda: Dash's clinic: Imperium "Imperium Geopolitics" (2022).
[7] K. Ueda: Dash's clinic: Imperium "First move in the Terran Confederation" (2022).
[8] S. List : GRYPHON #1, pp.6 (1980).
[9] T. Nakamura: Game Journal Jpn. Ed. No.10, pp.1 (1993), No.11, pp.9 (1993), No.12, pp.17 (1993),
reprint: Game Journal Jpn. Ed. No.1, pp.50 (2001), No.2, pp.50 (2002), No.3, pp.46 (2002).
[10] Imperium rules booklet (Conflict Game Co.: 1977).
[11] M. W. Miller: The Dragon #20, pp.4, pp.28, pp.31, III(No.6)(1978).
[12] Imperium rules booklet (GDW: 1979).
[13] Imperium rules booklet (HobbyJAPAN CO., Ltd.: 1982).
[14] Imperium rules booklet (HobbyJAPAN CO., Ltd.: 1985).
[15] Imperium rules booklet (GDW: 1990).
[16] Imperium rules booklet (Kokusai-tushin Co., Ltd.: 2019).
[17] Imperium rules booklet (Kokusai-tushin Co., Ltd.: 2001).
[18] P. Kosnett: The Grenadier #1, pp.9(No.2) (1978).
[19] Private game matches and post-game analysis with other clubs member since 1986.


1. Imperium
第7回 地球の初手
第9回 帝国の戦役
Dash's Clinic: All right reserved by Kazuhiro Ueda, 2022.

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